〈仕事のビタミン〉外村仁・エバーノートKK会長9

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外村仁(ほかむら・ひとし)1963年生まれ。東大卒業後、米大手コンサルティング会社に入社。その後、アップルコンピューター・ジャパンに転じ、マーケティングなどを担当。スイス国際経営大学院のMBAを取得し、シリコンバレーで複数の会社を立ち上げる。10年6月から、エバーノート日本法人会長。河合博司撮影

■時間は足りない位のほうがよい

 今年の夏は、本当にたくさんの日本のベンチャー企業がシリコンバレーにやって来ました。この10年間で最大の数ではないでしょうか。ジャパン・ソサエティーのUS−Japanイノベーションアワードで、日本のベンチャーが紹介され大賞を受賞した話は、この連載の5回目で書きました。

 また、8月にサンフランシスコで行われたエバーノート・トランク・コンファレンスでも、世界からのファイナリスト達に交じって、日本の男性プログラマーと、慶応大学メディアデザイン研究科で学ぶ女子大学院生の2人が壇上で堂々とプレゼンを行い、そのユニークなアイデアや優れたプログラムが満場の喝采を浴びていました。このイベント以外にも、この夏にサンフランシスコでは、日本のプロフラマーや起業家をデビューさせるイベントが3つ行われ、この秋にも私が知るだけであと2つ開催されます。

 他方、日本でも様々なイベントが催されています。私も先日仙台で行われた「復興創発会議 in 仙台」に参加し、東北地方のITコミュニティーの方々に多数お目にかかることができ、同時に東北地方の元気のある開発者の方々のプレゼンをたくさん見せていただくことができました。私自身、震災以降東北地方に初めて自分で足を運ぶことができた上、この地から世界を変えて行こうという若いプログラマーの方々の熱気を肌で感じることができたのは大変うれしいことでした。

 また、同じ週には東京で、アジャイルメディア・ネットワークという東京のブログマーケティングの会社が主催する「Wish 2011」というイベントでも新しいサービスプログラムのコンテストが行われそこでも審査員をつとめさせていただいたのですが、予選をくぐり抜けた10社の様々なアイデアの詰まったプレゼンを楽しませていただきました。

 さらに言えば夏前には、恵比寿にあるデジタルガレージ社の中に設けられた起業家のための施設である「オープンネットワークラボ(http://onlab.jp/)」の第三期生として入居する7社(みんな若い会社ばっかりです)のプレゼンを聞いてそれを講評するメンタリングをやりましたが、これがまたレベルの高いアイデアや作品が多く、私と一緒にメンタリングしたエバーノート最高経営責任者(CEO)のフィル・リービンも、ここにはそのままシリコンバレーで通用する会社もあるね、とビックリしたこともありました。

 過去10年いろんな日本の起業家やプログラマーの作品やプレゼンを見て来た私の個人的な実感になりますが、近年日本のプログラマーやエンジニアから出てくるアイデアやプログラム/サービスのレベルはどんどん向上していて、とてもうれしく思います。また、日本では「エンジニアは口下手」というのが古い時代の常識であったのではないかと思いますが、最近の若いエンジニアの方々のプレゼンや話す様子をもし皆さんが目の当たりにされれば、その説明のうまさにびっくりされ、若い世代に対して心強く思われるのではないかと思います。

 ただ、今回一つ気がついたことがありました。日本で開催されるイベントでのプレゼンでは、おしなべて一社あたりの持ち時間が長いのです。先日シリコンバレーでも最も評判の高いインキュベーション施設のワイ・コンビネーター(http://ycombinator.com/)の入居企業のプレゼン会に参加したのですが、4時間のイベントで72社のプレゼンを聞かされました。準備時間や休み時間をのぞくと一社あたり3分です。

 他方、日本のイベントは5分から7分、そして決められた時間をオーバーしても話し続ける会社も多くありました。3分も5分もそんなに違わないように感じられるかもしれませんが、この結果なにが違うのでしょうか?

 自分がやっている会社や技術には当然自分の思い入れもありますし、また自分の事を人に知って欲しいという人間の本能的な欲求もありますので、自分の立ち上げた会社や技術の話はだれしもつい長くなりがちです。でも、それを3分で言いたい事を言えといわれたならば、今日話を聞いてくれる人の興味や背景を思い浮かべながら、一番大事なかつ相手に最も訴えるポイントだけに必然的に絞りこむ必要があります。

 いろいろ話したい自分の欲求と戦いながらの作業ですが、自分のエゴを捨て、余計な飾りを捨てというプロセスが、相手にすっと分かりやすい説明を作るのに非常に役立つのです。これに比べ、十分すぎる時間が与えられると、自分の言いたい事を潤沢にちりばめてしまい、結果ポイントがぼけ本当に大事なことが隠れてしまい、結局伝わらないことになりがちです。実際、日本でのプレゼンを見ると、話は面白くとっても楽しく聞けるのですが、プログラム作品としてなにがすごかったのか、振り返ってもよく分からなかったものもいくつかありました。

 聞いているうちに「これって結婚式のスピーチみたいだ」という感想を持ちました。もしかしたら、日本では壇上のプレゼンがそちら方面に独自の進化を遂げつつあるのかもしれないという気もしたくらいです。

 時間が潤沢といえば、日本の会社とのミーティングもそうです。標準は1時間、場合によっては2時間を用意されていて驚きます。もちろんそんな長い時間人間の集中力は続きませんし、長いミーティングを設定する人に限って事前の準備が十分でなく、その場で初めて資料を読みだす人も多いようです。

 ミーティングは自分の時間だけでなく、参加者全員の貴重な時間を消費していることを理解してないのではと、残念に思うことが時々あります。

 先日あるオンライン販売会社の創業社長とミーティングする機会があり、大変忙しい方なので30分だけ時間を頂きました。その30分で1時間の内容を伝えようとするあまり自分の事前の準備には念がはいり、結果的に15分で用件を伝え十分理解いただいて、さらに残りの15分では発展的なアイデアまで議論することができるというおまけまでつきました。

 過ぎたるは及ばざるがごとしと言います。これまでの習慣で1時間のミーティングや会合をセットするのが習慣になっている方は、時間を30分や20分に設定し、浮いた時間で事前に絞り込みや説明の練習に充ててみてはいかがでしょうか?

 説明や議論の能率が大幅にあがるのを実感されると思いますし、その結果、会社から早く帰れて家族との時間をより楽しめるようになるのではと思います。

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