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2012年4月20日14時20分

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〈仕事のビタミン〉外村仁・エバーノートKK会長:18

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TEDスーパープレゼンテーションのイベントに出場した山本くん(左は筆者)

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クラレンドン小学校でのプレゼンテーションの様子

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外村仁(ほかむら・ひとし)1963年生まれ。東大卒業後、米大手コンサルティング会社に入社。その後、アップルコンピューター・ジャパンに転じ、マーケティングなどを担当。スイス国際経営大学院のMBAを取得し、シリコンバレーで複数の会社を立ち上げる。10年6月から、エバーノート日本法人会長。河合博司撮影

■中学生のプレゼンに衝撃を受けた!

 私の子供はサンフランシスコの公立小学校に通っているのですが、父母参観に行ったり、ふらっと授業を見学にいったりすると、生徒がボール紙に貼った資料を前に一生懸命説明をしている光景によくでくわします。

 夏休みの宿題などを見ても、結果をリポートにまとめるというより、最初から人に説明することを前提に課題を与えているように感じます。

 「Show and Tell(ショー・アンド・テル)」という言葉があります。

 Showは見せる、Tellは伝えるということですね。アメリカの教育ではごく一般的な言葉で、例えば好きなぬいぐるみとか、本とかを学校に持っていき、友だちや先生に見せながら、どうしてそれが好きかを自分の言葉で説明することをさします。

 アメリカで育つ子どもの多くは就学前からこの洗礼をうけ、夏休みの出来事や好きな遊びなどさまざまなテーマで、クラスメートや先生の前で話をする機会が多いのです。

 これは何かの発表会や特別な式典で決められた形式に従って発表するというものではなく、あくまでも自然に、普通の会話や生活の延長として行われています。そのため、こういう習慣を自然に身につけています。私は、うちに遊びにきた小学生が自分の夢に関してとうとうと語るのを聞いて、感心する経験を何度もしました。

  

◆授業でプレゼンを教えない日本

 私は大学を卒業してすぐ、ベイン・アンド・カンパニーという外資系の戦略コンサルティング会社で働き始めました。それまでは日本生まれの日本育ちですから、純日本風の教育しか受けていなかったので、研修で世界中の新人がボストンに集まった時、ほとんどの新卒生があまりに堂々と、かつ雄弁に語ることに軽くショックを受けました。

 さらに、新卒トレーニングの一つの科目として「プレゼンテーション」にかなりの時間が割かれ、プレゼン力の向上のためのテクニックがすでに確立したメソッドになっていることにも驚きました。「わかりやすく、説得力をもって伝える」ことは、大事なビジネスツールとして位置づけられているのですが、日本の学校でこういった授業をうけた記憶はありません。

 そういう経験を通じて、日本人がいいたいことを伝えられていないという危機感もあり、アメリカの人のプレゼンテーションのうまさをどうにか日本の人にも伝えたいなと思うようになりました。2年前、たまたまジョブズのプレゼンの秘密を世界ではじめて詳細に解説した本に出会い、日本語版出版のお手伝いをしました。

 その「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン」(日経BP社)は、プレゼン本として、そして経営の本として広く読まれる本となりました。が、400ページもあるので、読者はビジネスマンや経営層が中心で、よいプレゼンテーションの感動を広く一般に伝えることはあまりできませんでした。

  

◆TEDカンファレンス

 ところがこの春、私の知る限り日本のテレビで初めて「プレゼンテーション」という言葉がタイトルに入った番組が始まりました。NHK教育で毎週月曜の夜11時から放送されている「スーパープレゼンテーション」という番組です。この番組の背景にあるのはTEDカンファレンスというアメリカで開かれる会議です。

 学問や芸術、デザインなど多様な分野のトップの人々が、「世界に広める価値があるアイデア」をキーワードに、短くも、人の心を打つプレゼンテーションを行うイベントです。今回の番組は、その中で代表的なプレゼンテーションを取り上げ、そのスタイルと訴える内容を楽しみながら、説得力のコツを解説するというものです。

 遅い時間の放送ですが大変反響を呼んでいるそうです。ある視聴者からの「プレゼンテーションって、こんなに聞き手の心を動かして面白いものだとは知りませんでした」というコメントが、この番組の中身をよく表していると思います。

 3月30日に放送された、放送開始前の特別番組の中で、先だって東京で行われたイベントも一部紹介されました。

  

◆興奮で言葉もでないプレゼン

 私はそのイベントで審査員をしたのですが、その日に登壇した10人ほどの中で、千葉県の中学生、山本恭輔さんの英語のプレゼンテーションに激しい衝撃を受けました。

 彼のプレゼンが終わった後は会場総立ちで(いわゆるスタンディングオベーションです)、直後に司会者から感想を求められた私も、最初は興奮のあまり言葉が出ませんでした。

 それは、イギリスのテレビ番組の歌のオーディションで、初めてスーザンボイルが登場した時の感動に似ていたかもしれません。さらに驚いたことに、彼は英語でプレゼンしたのは、この日が初めてだというではないですか。

 こういう中学生が日本に現実にいることがうれしかったですし、今後、自分の言いたいことを、情熱をもって堂々と語り、聞く人の心を動かせる子供たちが日本に増えていくことを心から期待しています。

 この特別番組は、4月25日にNHK総合で再放送されるそうなので、前回見のがされた方は、ぜひご覧ください。私の感動を共有いただけるかと思います。

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