(社説)接種センター 混乱招かぬ取り組みを
政府が東京・大手町に新型コロナワクチンの「大規模接種センター」を設けると発表した。5月下旬から約3カ月間、自衛隊が主体で運営に当たる。接種対象として1都3県に住む65歳以上の高齢者を想定し、大阪でも設営を調整するという。
接種は2月に医療従事者から始まり、今月半ば高齢者に広がった。現場を預かる市区町村にとって、医師や看護師、会場の確保は大きな課題だ。政府は来月中旬以降、ワクチン供給を大幅に増やすことができるとの見通しを示す。接種ペースを上げるため、自らが主体的に関わることには意義がある。
しかし、対象者をどのようにして決めるのか、また各自治体とどう連携していくのか、詳細ははっきりしない。積み上げのないまま唐突に打ち出された施策との印象が強く、期待よりも疑問や懸念が先に立つ。
お年寄りを巻きこんでの混乱を招くことのないよう、政府は早急に細部を詰め、人々への周知に努める必要がある。
変異株の流行が指摘され、夏に向けて暑くなる季節に、高齢者に電車やバスを乗り継ぐなどして、都心まで2度足を運んでもらうのが適切なのか。これが最初の疑問だ。自宅に近いところで接種できるほうが楽だし、本人や家族も安心できる。その方策を優先して検討し、実現を図るのが筋だろう。
伝えられる「1日1万人規模の接種」に見合う人員を確保するのも、容易な話ではない。
昨年末、自衛隊は北海道に10人、大阪府に7人の看護官らを派遣したが、その調整にも手間を要した。しかも今回、要員の供給源になると見込まれる自衛隊中央病院は地域医療の中核を担い、現にコロナ患者の対応にも当たっている。その業務に影響が出れば元も子もない。センター構想が、災害が起きた際の被災地への医療支援や、隊員の健康管理などに支障が及ぶこともあってはなるまい。
記録の管理も重要な課題だ。自治体は管内の住民がセンターで接種を受けた事実や予約状況を、常に把握しておく必要がある。そうでなくてもワクチンの流通や情報管理に関する政府のシステムが二つあり、全国知事会は様々な改善を求めている。負担をさらに増やすことのないよう、政府は自治体側の意見も聞いて、速やかにフローチャートを確立すべきだ。
菅首相は先週、高齢者向けの2回の接種を7月末までに終わらせるため「政府を挙げて取り組んでいく」と述べた。センターはその取り組む姿勢を「見せる」ための道具ではない。適切に機能して初めて、政治が責任の一端を果たしたことになる。
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