(社説)菅政権1カ月 強権的手法まで継承か

社説

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 説明責任をないがしろにする強権的な政治手法まで「継承」なのか。これでは「負の遺産」の解消どころか、安倍前政権下で進んだ政治の劣化に歯止めをかけることはできない。

 菅政権の発足からきょうで1カ月。携帯電話料金の引き下げや不妊治療への保険適用、デジタル化の推進など、個別の政策課題については、関係閣僚に矢継ぎ早に指示を出すなど、迅速な取り組みが目につく。

 一方で、臨時国会の召集は26日だという。新首相が国民に向け、初めて国政の方針を示す所信表明演説が、就任から40日後というのはいかにも遅い。憲法に基づく野党の臨時国会召集要求を放置するなど、国会軽視が際だった前政権と変わらない。

 森友問題の再調査は拒否。桜を見る会は中止する一方、安倍前首相による私物化疑惑にはフタをする。菅政権が前政権の負の側面を直視しない以上、これもまた当然の帰結なのだろう。

 独立性・中立性が重んじられる組織が、法の趣旨を曲げた恣意(しい)的な人事によって脅かされる暴挙が繰り返された。日本学術会議が推薦した会員候補者6人の任命拒否である。

 菅首相は具体的な理由は一切語らず、「前例を踏襲してよいのか」「総合的、俯瞰(ふかん)的活動を確保する観点から判断した」と、説明にもならぬ説明を繰り返す。学術会議から提出された推薦者名簿を「見ていない」と言うなど、6人除外を決めた経緯も明らかではない。あげく組織や運営に問題があるとして、自民党は学術会議の見直し論議に着手した。

 納得のいく説明がない、意思決定のプロセスが不透明、論点のすり替えで批判をかわす――。まさに前政権下で繰り返された光景だ。首相は国民にわかりやすく利便性を訴えられる施策には熱心だが、健全な民主主義のためには、政治の公正さが担保されなければならないことに思いをはせるべきだ。

 「国民のために働く内閣」を掲げ、自民党総裁選の際、国民から見ておかしいことは改めると述べたのは首相である。学術会議の人事に対しては、学界のみならず、映画監督や脚本家自然保護団体の関係者など、様々な分野の大勢の人から抗議の声があがっている。意に沿わぬ国民は視野の外なのか。

 自民党の杉田水脈衆院議員が性暴力に関連して「女性はいくらでもウソをつける」と発言した件では、杉田氏に議員辞職などを求める署名が13万筆を超えたが、党は受け取りを拒んだ。「性暴力の根絶」を掲げる政府のトップであり、党総裁でもある首相には、この国民の声にも誠実に向き合う責任がある。

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