(社説)デジタル通貨 変化への備えを万全に

社説

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 日本銀行がデジタル通貨の実証実験に乗り出す。経済の基盤を担う中央銀行として、技術と社会の変化に備えるのは当然の務めだ。日本経済の健全な発展に資するような、安全で便利な方法が実現できるのか。見極めに万全を期す必要がある。

 日銀が実験するのは、個人や企業が日々の買い物や取引に使える「一般利用型」のデジタル通貨だ。現金(紙幣や硬貨)に近い機能を持たせ、誰もが簡単に持ち運んで使えることを想定している。具体的なかたちは今後の検証次第だが、スマートフォンのアプリや「スイカ」のようなカード状のものに“デジタル円”が入金され取引できる、といったイメージに近そうだ。

 日銀は今年に入り、欧州中央銀行米連邦準備制度理事会など主要国中央銀行と、デジタル通貨の共同研究を進めてきた。フェイスブックが独自の仮想通貨「リブラ」構想を打ち出したり、一部の国で現金の流通が減り続けたりしていることが背景にある。中国も独自に実現に向けて動いており、通貨の「デジタル化」の仕組みの標準をめぐる競争も意識されている。

 共同研究の成果は三つの原則にまとめられ、(1)金融システムや物価の安定といった政策目的を損なわない(2)現金や銀行預金などと相互に補完し共存する(3)技術の発展や競争を通じて効率性を向上させる、とうたわれている。いずれも出発点としては妥当な基準だろう。

 発行の是非は当然、各国の判断とされる。日本では現金流通は減っておらず、日銀は「現時点では発行の計画はない」とする。ただ、キャッシュレス決済の普及などの動きもあり、準備を怠ってはならない。

 暮らしに広く関わり、技術的にも大きな変化となるだけに、検討すべき論点は多い。

 課題の一つは、民間との共存と協調だ。日銀は、デジタル通貨を発行する場合も、現金同様に、銀行などを介して個人や企業に流通する「間接型」にするという。銀行預金を置き換えてしまわないよう、使える額の上限も検討する。安全や確実性が必要な基幹部分は中央銀行が担い、使い勝手や効率性の向上には民間の創意工夫を生かすという役割分担が求められる。

 プライバシーをどう考えるかも重要だ。お金の詳細なやり取りが分かれば、その個人の経済活動は丸裸になる。すでに少額の現金取引以外は、犯罪抑止などのために記録が強化されているが、デジタル通貨の個人データの扱い方については慎重な検討が欠かせない。

 いずれにせよ、広く国民の声を聞き、透明な議論を重ねながら、検討を進めていくべきだ。

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