引き裂かれたカーテンと蝶 ウクライナ女性が五七五で詠む戦禍の風景

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聞き手・吉田貴文 藤えりか

 松尾芭蕉や与謝蕪村に魅せられ、14歳から俳句に打ち込む女性がウクライナにいます。ウラジスラバ・シモノバさん(24)。ロシアによる侵攻に苦しむさなかも詠み続け、日本での初の句集刊行に続き、新著を4月に出します。かつて木々や草花など自然を詠んだ句から、戦時下の風景へと、変わらざるを得なかったと言います。長期化する戦争は、24日で2年。ウラジスラバさんに、オンラインでインタビューしました。

 ――ウクライナ戦争が始まって2年になります。

 私が住む街では、一日に何回も空襲警報のサイレンが鳴っています。でも、シェルターは利用できますが、入る人はほとんどいません。地下で多くの時間を過ごすのは非現実的だからです。普通に自分の家で暮らし、買い物にも行きます。ただ、必ず戻ってこられるという保証はありません。

 ――ウクライナの冬は厳しいですが、戦時下でどうでしたか。

 政府はこの冬は厳しい状況になると言っていました。多くのエネルギーインフラがロシアによって破壊されたからです。しかし、電力関係者が懸命にインフラを修復し、私たちは節電に務めた結果、停電せずに乗り切れました。

 とはいえ、ロシアの攻撃は続いていて、ウクライナに安全な場所はありません。私が住む街は国境から離れていて、工場や大規模なインフラ施設もないので、1年半前まで住んでいた故郷ハルキウと比べるとかなり安全ですが、それでも最近、近くで爆発音が聞こえた日がありました。

攻撃激化の故郷・ハルキウを後に

 ――故郷を後にせざるを得なかったんですね。

 ウクライナ北東部のハルキウは、国境から近いこともあって、2022年2月のロシアの侵攻直後から、激しく砲撃されました。私と父母、愛犬のチワワは3カ月間、防空壕(ごう)で暮らしましたが、初めのうちは食べ物も足らず、横になって眠るスペースもなかった。人々は恐怖にかられ、混乱の極みにありました。

 防空壕が閉鎖され、いったん自宅に戻りましたが、ロシア軍の爆撃は引きも切らず、この年の夏、家の前の工場にミサイルが命中したのを機に、親類を頼って今住む街に一家で引っ越してきました。

 ――戦争が終わるメドが見えません。

 ロシアの戦争犯罪は続いています。ハルキウでは最近、十数軒の家がロシアの攻撃で焼け落ち、子どもを含む何人もの焼死者が出たと聞きます。2年がたって戦争に慣れてきたように感じることもありますが、こうした事件があると、悪夢の中での暮らしに完全に順応することはできないと思い知らされます。

 時々、自分が“人生遅延症候群”に陥っているのではないかと感じることがあります。

 ――人生遅延症候群?

 将来の見通しがなく計画が立たないとき、人は遠い将来には充実した人生を送れると思おうとします。ただ、時は過ぎていくだけで、いつ平穏な生活が取り戻せるか分からない……。

黛まどかさんから届いたメール

 ――つらい状況ですね。そんな中、ウラジスラバさんは俳句を詠み続け、昨年夏には日本で初の句集『ウクライナ、地下壕から届いた俳句』を出されました。

 俳句を始めてからずっと、自分の句集をつくりたいと夢見ていました。ウクライナ侵攻後も俳句をつくり続けていた私を知った日本の記者が新聞に記事を書き、それを読んだ俳人の黛まどかさんからある日、メールをいただきました。

 黛さんは私の俳句を評価し…

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