第1回敵基地攻撃、防衛費増… 有識者会議ではどんな議論が行われたのか?

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高橋杏璃 編集委員・佐藤武嗣
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 政府は昨年12月、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」や防衛費の大幅増を盛り込んだ国家安全保障戦略など安保関連3文書を改定した。岸田文雄首相が「戦後の安全保障政策の大転換」とする3文書改定に向けた議論の一端を担ったのが、政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」だった。

 政府が3文書改定に向け、最初にとりかかったのは、「有識者会議」ではなく、「有識者との意見交換」だった。国家安全保障局幹部らが昨年1~7月、17回にわたって実施。対象は、森本敏防衛相や折木良一元統合幕僚長ら政府や自衛隊の元幹部、研究者ら50人超にのぼった。

 意見交換は非公開で、事前に明らかにされたのは開催日やテーマ、参加者だけ。有識者の配布資料も非公開で、政府関係者によれば、相手から「意見したことを伏せてほしい」と言われ、氏名を公表しないケースもあった。

 安倍政権時代は、安保政策の転換にあたっては「有識者会議」を開いてきた。「有識者との意見交換」にした理由について関係者は「今の安全保障は関連分野が多岐にわたり、メンバーを固定する有識者会議の形式はそぐわない」と言う。

 これに対し、野党などから「国民に何にも開示しないで議論を勝手にやるのか。まるでブラックボックスではないか」(立憲民主党福山哲郎氏)との批判が相次いだ。

 政府は昨年9月1日、その「意見交換」の「議論の要旨」を公表したが、発言者の氏名は伏せられた。発言もテーマごとに要旨を並べただけだった。

 「有識者との意見交換」を終えた時点で、国家安保局幹部は「新戦略策定のお膳立てが整った」と語っていた。ところが、首相は9月8日、当初予定していなかった「有識者会議」の設置を発表した。

 有識者会議は昨年9~11月、計4回開かれた。開催後には、主な意見を箇条書きにした「議事要旨」を公表したが、発言者の名前は伏せられていた。

 ところが政府は今年1月24日、発言者も明記した議事録を全文公開した。

 議事録によると、最終回となった昨年11月21日の第4回会合で、中西寛・京都大大学院教授が苦言を呈した。国民に議論を公開する姿勢を一定程度評価しつつ、「今回の有識者会議の教訓」として、「時間等が限られ、(有識者の)知見が十分に交流するところまで行かず、全体として非効率になっているのではないか」と発言。日本の安全保障の検討や意思決定のあり方が「国民に見えない」とも指摘した。

 なぜ、有識者会議が設けられ、どんな議論があったのか。

 国家安全保障戦略など安保関…

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この記事を書いた人
高橋杏璃
政治部|外務省担当
専門・関心分野
外交
佐藤武嗣
論説主幹
専門・関心分野
外交、安全保障、国際情勢、民主主義、ジャーナリズム
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    鈴木一人
    (東京大学大学院教授・地経学研究所長)
    2023年3月6日2時38分 投稿
    【解説】

    なかなか興味深い記事。有識者会議にはいろんなタイプがあり、最初からゼロベースで議論するものもあれば、役所が決めた路線をなぞるだけのものもあるが、今回は元々予定されていなかった有識者会議で、しかも回数も時間も限られる中での会議だっただけに、い

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    遠藤乾
    (東京大学大学院法学政治学研究科教授)
    2023年3月7日20時28分 投稿
    【視点】

     この有識者会議は、政治的には、財布を握る財務省が防衛費大幅増に「乗る」ための転轍装置のような機能を果たしているように映る。戦後復興、高度成長、(未達の)福祉国家などの大きなアジェンダ変容の先に、軍拡という大支出先を呑み込むためのポイントを

    …続きを読む