口座ないが携帯はある 貧困層に支援金、3週間で届けた

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笠井哲也 西村宏治 サンパウロ=岡田玄 奈良部健
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 お金をためたり、送ったり借りたりもできる金融サービスは、計画的な暮らしに欠かせない生活基盤だ。

 だが、世界銀行の2017年の調査によると、世界では17億人の成人が銀行口座を持っていない。ほとんどが途上国に集中し、56%は女性だ。口座の有無は、経済格差にもつながっている。金融サービスの利用を増やす「金融包摂」が、「貧困撲滅」や「ジェンダー平等」といった多くのSDGs達成のカギとされるのもそのためだ。

 国際通貨基金のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は昨年1月の講演で「金融包摂はジェンダー、人種、地理的条件、そして人生のスタート地点の不平等による障壁を打ち破る助けとなり得る」と訴えた。

金融包摂とは

銀行口座にお金をためる、銀行から融資を受ける、けがや病気に備えて保険に入るといった基本的な金融サービスを、すべての人が受けられるようにする取り組み。世界では貧困や差別によって、成人の約3分の1が銀行口座を持っておらず、金融サービスを受けられずにいる。金融包摂は、貧困の削減や所得格差の是正のためにも重要とされ、SDGsでも「すべての人が銀行や保険などのサービスを利用できるようにする」などと掲げられている。最近はスマートフォンの普及や金融と情報技術を結びつけた「フィンテック」によって取り組みが進んでいる。

 これまでは、銀行もATMもないのが途上国の郊外では一般的だった。だが、状況は変わりつつある。ITと金融の技術革新でさまざまな電子マネーが生まれた。中でも携帯電話を使った決済は、現金の利用を避けられるため、コロナ禍で特に注目された。

 銀行口座を持たない17億人のうち3分の2は携帯電話を持っており、アプリなどを通じた支払いや貯蓄のサービスが生まれたことで、銀行代わりに使う人が増えている。携帯からの支払い履歴などを通じて信用を測ることができれば、個人や零細企業向け融資の道もひらける。

 国連資本開発基金によると、ケニアでは08~14年、携帯での決済の広がりを通じて100万人が極度の貧困から抜け出した。ブルキナファソでは、携帯決済の利用者は、利用しない人に比べて、予期せぬ出費に備えて約3倍もお金をためることができたという。

 電子マネーは現金よりも管理がしやすく、貯蓄の習慣も身につきやすい。アプリ上で家計が「見える化」されたことで、計画的な消費にもつながる。

 ただ、新たな金融サービスには課題もある。たとえば障害や高齢が理由で端末を使いこなせない人は、サービスからはじかれてしまう。金融の知識が少ない人が、利息の返済条件などを確認しないまま借り入れをし、多額の借金を抱えることもある。かつて韓国ではクレジットカードが急速に広まったことで債務者が急増した。現在、各国で利用が広がる後払い方式(ポストペイ方式)は買い物時にお金がなくても買い物ができるのが特徴だが、審査が緩いことも多く、家計を借金漬けにするリスクもある。

 東洋大の川野祐司教授(金融政策)は「電子マネーなどの新たな金融サービスでは、どの国でも借り入れ上限などのルール作りが進んでおらず、お金を貸す側のハードルが低い。銀行に比べ、当局による監視体制も緩い。金融包摂は立場の弱い人の状況を改善させるが、多くの人が融資を受けられることで、過剰融資の懸念も生まれる。金融教育や貸し出し規制などを同時に進めることも必要だ」と指摘する。(笠井哲也、西村宏治

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