(社説)タイ野党解党 司法用いた民意の抑圧
タイに真の民主政治は根付くのか。深い疑念を抱かせる事態である。
タイの憲法裁判所が、下院で最大勢力の革新系野党・前進党の解党を命じた。2023年の総選挙で、王室に対する不敬罪の改正を公約に掲げたことが、立憲君主制の転覆をはかる憲法違反にあたるとされた。党の幹部らは10年間、政治活動を禁止される。
前進党は総選挙で、政治介入を繰り返してきた軍の改革なども掲げ、若者を中心に支持を集めて第1党に台頭。親軍・保守派などに政権樹立を阻まれたが、今でも世論調査での支持率は5割に迫る。
今の憲法裁判所の裁判官は軍の影響下で選ばれている。危機感を抱いた保守派が、司法を使って事実上のクーデターにも等しい実力行使に出たとみるのが妥当だろう。
タイでは国王を頂点に軍や官僚、財閥などが支配層を形成してきた。2000年代に入ると、農村や貧困層の支持を集めたタクシン派が総選挙を制して政権を握り、支配層を脅かすようになる。
その際も、保守派は軍によるクーデターやタクシン派政党の解党など、あらゆる手で権益を守ろうとした。
だが、軍政を経て19年に行われた総選挙では、軍を厳しく批判した新未来党が第3党に躍進。保守派は、社会変革や民主化を目指す新未来党をタクシン派以上に警戒。翌年、新未来党は解党された。
だが、この出来事は変革を阻んできた岩盤に風穴も開けた。タブー視されてきた王室改革を求める声が上がり始めた。保守派は不敬罪を適用するなどして抑え込みにかかったが、新未来党の後継政党である前進党がさらに勢いづく結果になった。
民意がどちらに向いているのかは明らかだ。保守派が既得権益を守るために強硬手段に訴えても、民意を封じこめるのはもはや不可能だ。前進党が解党されても、その後継政党への支持は揺らぐまい。
隣国カンボジアでも17年に最大野党が解党され、ミャンマーでも民主化指導者アウンサンスーチー氏が率いる政党が事実上の解党に追い込まれた。政党を標的にする権力の横暴は許されない。
既得権層がタイの競争力を弱め、経済成長の鈍化を招いているとされる。解党命令には国際人権団体などから厳しい批判が出ており、国際的な信用低下も免れまい。
民主化の後退は、社会の健全な発展を阻害するだけでなく、東南アジア諸国の影響力低下にもつながりかねないことを、地域の為政者は肝に銘じてほしい。
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