(社説)西九州新幹線 開業を素直に喜べない

社説

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 西九州新幹線が開業した。計画から半世紀を経た門出だが、残念ながら手放しでは喜べない。時間短縮は限られ、巨費に見合う効果の見通しがないからだ。整備新幹線の抱える問題があらわになっている。

 開業したのは武雄温泉―長崎間の66キロ。念願がかなった長崎県を中心に歓迎の声があがる。

 だが、約6200億円を投じたものの、博多から長崎への移動時間は最速1時間20分で、約30分の短縮にとどまる。

 驚くのが、建設にあたった鉄道建設・運輸施設整備支援機構自体が、かけた費用の半分しか便益が得られないと評価していることだ。効果が費用を上回るのを要件とする整備新幹線のルールからしても、着工すべきではなかったことになる。

 当初は、武雄温泉までの在来線と、その先の新幹線を通して走れる新型車両を運行する計画だった。だが、車両開発に失敗して乗り換えが必要になり、投資効果も大幅に下がった。

 本来なら、この経緯を教訓に「新幹線ありき」の発想を見直すべきだろう。だが、国土交通省に反省の色はみえない。それどころか、新鳥栖―武雄温泉間の約50キロを、フル規格の新幹線で早期に延伸する構えだ。

 地元の佐賀県は、新型車両導入を前提にした当初の計画には同意していたが、この延伸には難色を示す。時間短縮の恩恵は乏しいうえに、並行在来線が不便になる恐れがあるからだ。懸念を抱くのが当然だろう。

 そうした事情を顧みず、「途中まで造ったのだから、つなげなければ損だ」といって延伸を押し通そうというのでは、開いた口が塞がらない。

 高速鉄道網では、リニア中央新幹線の建設も静岡県の同意が得られず暗礁に乗り上げている。共通するのは、建設に前のめりな声ばかりを重視し、公共事業を上意下達で進める手法の限界である。

 23年度末開業予定の北陸新幹線の金沢―敦賀間も、工事費高騰で費用が効果を上回った。それでも国交省は、敦賀以西の整備を進めようとしている。自民党内には、凍結状態にある山陰や四国の新幹線建設の復活を目指す動きすらある。

 こうした計画がたてられたのは、高度成長末期の1973年だ。右肩上がりの成長や人口増は終わり、北海道や四国を中心に、赤字ローカル線は存続の危機にある。社会の環境保護への意識も高まった。

 求められるのは、拡大から維持に交通政策の軸足を移すことだ。道路や空路を含めた幅広い視点で、交通網を再構築する必要がある。財源を新幹線ばかりに注ぎ続ける余裕はない。

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