(社説)自民党総裁選 財源論議から逃げるな

社説

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 コロナ禍に苦しむ人々を支えるため、財政出動の必要はあるだろう。しかし直後に迫る衆院選向けに、予算ばらまきの口約束をするばかりでは困る。中長期的な財政運営の考え方についても、議論を深めるべきだ。

 自民党総裁選の焦点の一つは、新総裁誕生後に検討が本格化する経済対策の中身だ。

 コロナ禍に直面する企業向けの支援では、4人の候補者の間で大きな違いは無い。個人向けの現金給付については、河野太郎行政改革相や岸田文雄政調会長高市早苗総務相は、困窮世帯などに給付を限定する考えだ。野田聖子幹事長代行は、働き手全員に一律給付するとしている。

 コロナ禍ですべての人々の行動が制約される一方、経済的な影響は業種や働き方によって異なる。そんな実態も踏まえ、多くの国民が納得できる施策を検討することが望まれる。

 コロナ後をにらんだ政策の訴えにも力が入る。

 安倍政権以降、企業業績は改善したが、賃上げは限定的で、豊かさを実感できないという声が多い。その反省からだろう。格差の是正や再分配のあり方を意識した主張が目立つ。

 河野氏は、転職をしやすくする職業能力訓練の強化を、岸田氏は、保育士や介護福祉士の報酬改善や子育て世帯の住居・教育費への支援を訴える。高市氏は、低所得世帯向けに減税と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」の導入を主張する。野田氏は、少子高齢化対策を成長戦略の柱に据え、大胆な子どもへの投資を提唱する。

 「アベノミクス」を発展させるとの立場をとる高市氏は、その他の政策でも財政出動に前向きで、災害対策などの国土強靱(きょうじん)化に「10年間で計100兆円規模」の投資を唱えている。昨年末に事業費を「3年間7兆円」から「5年間15兆円」に増やしたばかりであり、更なる増額には十分な説明が求められよう。

 問題は、4氏のいずれもが、自らの政策に必要な財源の確保策をほとんど語っていないことだ。

 コロナ対策の費用を当面、借金でまかなうのはやむをえまい。だが、コロナ後も続く政策は当然、財源とセットで議論する必要がある。

 コロナ禍のなかでも、米欧では、増税で財源をまかなう動きが相次いでいる。先進国で最悪とされる財政状況の日本が、漫然と借金を重ねるのは、次世代に対してあまりに無責任だ。

 予算を使うだけなら誰にでもできる。政治家の真価は、痛みを伴う政策を語ることにある。その責務から、4人の総裁候補も逃げてはならない。

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