(社説)相撲界の暴力 社会との溝 またも露呈

社説

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 観客を入れての大相撲本場所が、19日から半年ぶりに開かれる。その矢先にまたも不祥事、それも親方による弟子への度重なる暴力・暴言という驚くべき行状が明らかになった。角界と一般社会の常識との間には依然として深い溝がある。

 日本相撲協会は有識者らでつくるコンプライアンス委員会の調査結果を公表した。それによると、中川親方(元幕内旭里)は弟子の居眠りや荷出し作業の不手際に腹を立てて暴力行為を繰り返した。「首にするぞ」「殺すぞ」といった言葉も日常的に浴びせていたという。

 解せないのは下された処分だ。中川部屋は閉鎖して所属する力士を他の部屋に移すが、親方本人は「委員」から最も低い「年寄」に降格させるにとどめ、協会に残すという。

 07年の弟子暴行死事件以降も暴力行為が後を絶たず、その決別は協会が抱える大きなテーマだ。3年前には若手力士に傷害を負わせた横綱日馬富士が引退に追いこまれ、親方や地位の高い力士にはより重い処分を科す方針も打ち出された。今回、被害者が厳罰を望まなかったことなどが「量刑」の理由だというが、過去の事例との均衡を欠き、内外への誤ったメッセージにもなりかねない。

 問題は有形力を使った制裁だけではない。パワーハラスメント対策を強化する法律が昨年制定され、厚生労働省はどんな言動がハラスメントにあたるかの指針を公表。スポーツ界でも、昨秋にサッカーのJリーグ・湘南の監督がパワハラが原因で退任する出来事があった。

 優越的な立場を利用した理不尽なふるまいに厳しい目が注がれる時代だ。にもかかわらず、社会の動きに角界は鈍感すぎると言わざるを得ない。

 講師を招いて研修会を開くなど、協会も一定の取り組みはしている。だが、より根源的な課題として、若い力士らとのコミュニケーションが思うようにいかない時にどうしたらいいか、対処方法の引き出しが少ないことがあるのではないか。

 親方になれるか否かは力士時代の実績で決まる。状況に応じた指導スキルや部屋運営のノウハウなど、求められる能力は高くかつ多様になっているのに、それに応える態勢がとられているとは言い難い。資格制度を導入している他競技に学んだり、教育界との連携を進めたりしながら、改善を急ぐべきだ。

 協会は6年前、税制優遇を受ける新たな公益法人の認定をとりつけたが、年寄名跡の問題を始めとして、肝心な改革は棚上げされたままだ。社会とともに歩む意識を持たなければ、待ち受けるのは衰退の道である。

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