篠田正浩監督が去り、日本映画は歴史と切れていく 小栗康平監督寄稿
「もう私の映画のお客さんはいません」と篠田正浩さんがお昼をごいっしょしたときにさらりと言った。それと同じ時だったか別だったかはっきりしていないけれど、「こんなにも途方に暮れた10年はなかった」と洩(も)らされたこともある。「スパイ・ゾルゲ」を最後にして映画を撮らなくなってからずっと後のことである。
「心中天網島」「卑弥呼」に現場スタッフとして関わり、その後は「家出した不良息子」と呼ばれて可愛がられた小栗康平監督が、3月25日亡くなった篠田正浩監督を追悼します。
途方に暮れるどころかじっさいには、映画を離れて「河原者ノススメ」「路上の義経」(共に幻戯書房)の2冊を上梓(じょうし)されている。日本の芸能史を掘り下げた読み応えのある論考だった。そうであるにせよなおと言っていいのかどうか、映画監督として在ろうとしてきたその身体が老いて思うに任せなくなってきたときの悲哀を、私はその篠田さんの言葉に思った。
訃報(ふほう)を知って、こ…
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