ガザ在住のマンスール朝日新聞通信員死亡 イスラエルがミサイル攻撃

エルサレム=伊藤弘毅 ワシントン=清宮涼
【動画】イスラエル軍の攻撃を受けて死亡した、朝日新聞のムハンマド・マンスール通信員

 イスラエル軍の攻撃を受けるパレスチナ自治区ガザで、朝日新聞の通信員を務めてきたジャーナリストのムハンマド・マンスールさん(29)が24日、死亡した。ガザ当局が同日発表した。イスラム組織ハマスとイスラエル軍のガザでの戦闘は、約2カ月間の停戦期間を経て再び激化。5万人を超えたガザでの死者はなお増え続けている。

 マンスールさんが所属するNPO法人「地球のステージ」の代表理事で、精神科医の桑山紀彦さんがNPOの現地スタッフから聞き取った話では、マンスールさんは同日、南部ハンユニスの自宅でイスラエル軍のミサイル攻撃を受けた。

 一緒にいた妻と乳児の長男も死亡したとの情報だったが、桑山さんが25日、同じスタッフに改めて聞き取ったところ、マンスールさんの妻子が病院の集中治療室で治療を受けているとの新たな情報があり、確認を急いでいるという。

 マンスールさんはもともと最南部ラファに住んでいた。イスラエル側で約1200人が殺害されたハマスの越境攻撃を機に、ガザで戦闘が激化して以降は、イスラエル軍の攻撃から避難を繰り返しながら取材を続けていた。

 ガザでは大規模衝突が始まって以降、死亡するジャーナリストが相次いでいる。ガザ当局の発表によると、マンスールさんの死亡が207人目だとしている。中東の衛星放送アルジャジーラのホサム・シャバト記者(23)も24日、マンスールさんが攻撃を受けた後にガザで死亡した。同局は目撃者の話として、北部ベイトラヒヤの東部で、シャバト記者の乗った車が攻撃を受けたと伝えた。

 ジャーナリストの権利保護活動をする国際NPO「ジャーナリスト保護委員会」(CPJ)は24日、2人がイスラエル軍の攻撃を受けて殺害されたとして「ジャーナリストは市民であり、紛争地で彼らを攻撃することは違法だ」との声明を出した。

 イスラエルとハマスは今年1月、停戦と段階的な人質解放で合意。ハマスはガザで拘束していた人質の一部を解放し、イスラエルも拘束していたパレスチナ人を釈放した。だが、イスラエル軍のガザからの完全撤退や恒久停戦を含む、停戦の第2段階に進むかどうかで折り合えず、イスラエル軍は今月18日にガザで軍事作戦を再開していた。19日には再び地上作戦も始め、ハンユニスのある南部を含む全域で、攻撃を激化させていた。

 マンスールさんが亡くなったハンユニスの家は、最近借りたばかりだった。地球のステージのスタッフによると、桑山さんに死亡を知らせる電話の1時間前まで、マンスールさんと連絡を取り合っていたという。

 イスラエルを支持する立場の米国務省のブルース報道官は24日の記者会見で、マンスールさんら記者2人が死亡したことについて問われ、ハマスの責任を非難する一方、記者の死亡への言及を避けた。ブルース氏は「今起きている全ての出来事は、ハマスがこの地域を耐えがたい苦しみに引きずりこみ、数え切れないほどの死者を出してきた結果だ」と述べ、イスラエルへの支持を示した。

 林芳正官房長官は25日の記者会見で、ガザで記者を含む民間人の犠牲が増えていることを「深く憂慮している。全ての犠牲者の方々に対し、哀悼の意を表する」と述べた。

 ガザ保健省は25日、ガザで過去24時間に、少なくとも62人が死亡したと発表。ハマスの越境攻撃があった2023年10月7日以降のガザでの死者数は5万144人に上るとした。イスラエル軍がガザで戦闘を再開した今月18日以降の死者数は792人とする。

 イスラエル政府は、今も59人の人質がハマスに捕らえられ、24人は生存している可能性があるとみている。

【坂尻顕吾・朝日新聞社 執行役員編集担当のコメント】

 イスラエル軍の攻撃が続くパレスチナ自治区ガザの状況を現地から伝えてくれたムハンマド・マンスールさんの死に深い悲しみと憤りを禁じ得ません。いかなる状況であってもジャーナリストを含む民間人への攻撃は決して許されるものではありません。イスラエルによるミサイル攻撃があったとの情報があり、詳しい状況確認のため取材を続けています。

     ◇

〈おことわり〉マンスールさんの妻子は24日の取材では攻撃で亡くなったとのことでしたが、病院で治療を受けているとの情報があることが25日に分かったため、記事内容を更新しました。(25日17:00)

ガザ戦闘1年 マンスール通信員が見た戦場

朝日新聞は、マンスール通信員に取材協力を依頼して、エルサレム支局の高久潤記者とともにガザの様子を伝えてきました。​戦闘が始まって1年、マンスール通信員は何を思ってきたのか。高久記者とのやりとりから振り返りました。(2024年10月7日公開)

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この記事を書いた人
伊藤弘毅
アジア総局員兼ニューデリー支局員|アジア経済担当
専門・関心分野
南アジア、東南アジア、開発、エネルギー
清宮涼
アメリカ総局
専門・関心分野
外交、安全保障、国際政治
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    井本直歩子
    (元競泳五輪代表・途上国教育専門家)
    2025年3月25日7時56分 投稿
    【視点】

    嘘だと信じたい気持ちと、とうとうこの日が来てしまったという気持ちで、朝から涙が出た。ガザで戦闘が始まってからずっと、マンスール通信員の渾身のレポートを読み、何度も憤り、ガザの人たちの生命力に励まされ、彼の無事に安堵していた。記事を読みながら、彼のいる場所は安全なのか、ごはんは食べられているのか、家族に会えているのか、ジャーナリストは狙われるのではないか、寝られているのか、電子機器の充電はどうしているのか…などと、いつのまにか自分の知人のように心配していた。彼の撮る写真もガザの人々の日常が収まっていて楽しみにしていた。マンスールさんは、何もできずに無力感を感じている日本の私たちに、ガザの人々の強さと、彼らとの絆を届けてくれた。数ヶ月前に子どもが産まれていたとのこと。束の間の停戦中、子どもとの生活を楽しめただろうか。憤りで言葉がない。ご冥福をお祈りいたします。

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    川上泰徳
    (中東ジャーナリスト)
    2025年3月25日10時29分 投稿
    【視点】

    昨日(24日)夜、イスラエルの攻撃再開についてのガザの人々の声を伝えるマンスールさんの現地報告を読んだばかりなのに、朝、目を覚ますと、死亡したという記事。言葉もない。彼はイスラエルのガザ攻撃で死んだ207人目のジャーナリストという。この記事に<マンスールさんは自宅にいる時にイスラエル軍のミサイル攻撃を受けた>とあるが、ワシントンにあるNGO「ジャーナリスト保護委員会(CPJ)」が出している一人一人のジャーナリストが死んだ状況を見ても、ガザで命を落としたジャーナリストの多くが、イスラエル軍とハマスの戦闘がある戦場で攻撃に巻き込まれて死んだのではなく、家に帰って家族といるところで、ミサイル攻撃を受けて、家族と共に殺害されている。マンスールさんのように、イスラエルの攻撃によるガザの人々の苦難を世界に伝えてきたジャーナリストを「標的」として、家族と共に抹殺する卑劣な攻撃と言わざるを得ない。 ※記事内容の変更を受け、コメントを一部修正しました。

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イスラエル・パレスチナ問題

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イスラム組織ハマスが2023年10月7日、イスラエルに大規模攻撃を行いました。イスラエルは報復としてハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区に攻撃を始めました。最新のニュースや解説をお届けします。[もっと見る]