「ゴム印」と呼ばれた最高機関 雑音なき中国・全人代の「異変」
普段は多くの観光客で埋め尽くされる中国・北京中心部の天安門広場。東京ドーム約10個分の敷地には100万人を収容できるとも言われる。3月4日、いつもと違い、人がまばらな広場を歩いていた。「今年もこの時期が来たか」と感じながら。
目的地は広場の西側に立つ人民大会堂。ここで翌日開幕する全国人民代表大会(全人代)の記者会見に出るためだ。会期の前後は、広場や大会堂には全人代に参加する各地の代表や国内外のメディア、警備関係者など限られた人しか立ち入ることができなくなる。
広場の南端で車を降りて、大会堂まで10分弱。人にぶつからないよう注意せずに歩けるのは結構なことだが、足取りは軽くなかった。それは、これから始まるイベントが記者にとってわくわくするようなものにはならないと想像できたからだ。
正面入り口にはすでに記者の行列ができていた。列に加わり大会堂を下から見上げると、12本の巨大な大理石の石柱が迫り、その威圧感に押しつぶされそうな気がした。
全人代は中国の憲法で「国権の最高機関」と位置づけられる立法府だ。法律の制定や予算案の審査などが議題となり、日本では国会に相当すると説明される。毎年3月ごろに開かれる会議は、国会で例えるならば年に1回召集される通常国会のようなものだ。会期は以前は約2週間だったが、コロナ禍以降は約1週間に短縮された。
各地や軍などから約3千人の代表が集い、巨大ホールを埋め尽くす光景は壮観そのもの。そこに世界の注目が集まるのは、その年の経済成長率目標や国防費が示されるからだ。
一方で、全人代には欧米メディアを中心に「ラバースタンプ(ゴム印)」との不名誉な呼び名も定着している。程度の差はあれど、全人代は常に党の指導下に置かれ、党の決定を追認する機関に過ぎないとの評価から来る。
とはいえ、全人代を取材する先達の記者たち、特に外国人記者は「出来レース」と承知しながらも、にじみ出る中国政府の本音や、普段は会うことができない幹部らの息づかいに直接触れられる有用な機会だと捉えてきた。
だが、それすらも淡い期待な…
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- 【視点】
首相の記者会見も開かれず、上海市長も一言も発しないという今年の中国の全国人民代表大会(全人代)。この記事は、取材が厳しい中でも何らかのアングルを見つけようとして、全人代の「異変」をていねいにあぶり出している。最高法院と最高検察院の活動報告の
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