「柱ばかり見ず、くらしを見ているか」誰もが被災者となり得る時代に

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聞き手・山内深紗子

 異例のスピード解散を経て始まった衆院選。一票を投じる10月27日に向け、いま、大事にしたいことは何か、さまざまな社会課題と向き合う立場から考えます。

 「今の政治に対して、色々な思いを最もお持ちなのは、被災地(能登)の方々かもしれません」

 解散前に行われた立憲民主党・野田佳彦代表との党首討論で、石破茂首相が語った言葉です。地震、豪雨と大災害が相次いだ能登・珠洲市で支援を続けるNPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」の橋本笙子さんが被災地から見る今回の選挙、政治に望むことは。

10・27を話そう③ 能登で支援する橋本笙子さん

 ――この選挙について、どう受け止めていますか?

 このタイミングでの解散は、やはり受け入れがたいと表明せざるを得ません。期待する気持ちがあるからこそ、です。

 「永田町の論理」というブルドーザーが、特に弱い立場の人たちを絶望させている。この判断こそが、根強い政治不信を上書きしてしまう。そのことを理解しているのだろうかと。政治が大切だと思うからこそ、とても残念です。

 昨年5月と今年の元旦の地震、9月の豪雨。激甚災害に複数回見舞われた能登・珠洲市で支援を続けています。被災された方も、支援する行政も、心身ともに疲れ果てています。

 今回の豪雨被害で、高齢者もとても心配ですが、生業を持ち能登にとどまろうと踏ん張っていた若い人に「もうダメだ」と思わせたところが強いのではと懸念しています。

 まずはライフラインを復旧させ、生活再建を支援することに集中すべきだ。それなのに、政治空白です。投票所をどこに作るか?という頭の痛い対応に時間を取られていくことに、大きな疑問を感じます。

 「くらしに寄り添う」を有言実行しているのか。私も含めて多くの国民が、一票を託すべきかどうかの軸にしているのではないでしょうか。

被災した時、国は頼りになる?

 ――政策で注目するのは。

 気候変動の影響も色濃くなり、誰もが被災者になり得る時代に入りました。

 被災した時に、国は頼りになるのか? この点を重視します。

 私はシステムエンジニアをしていましたが、阪神淡路大震災を契機に、28年間、コソボやアフガン、東ティモール、南スーダンなどの海外や東日本大震災などで災害や紛争によって命やくらしが脅かされる現場で支援をしてきました。

 その経験をもとに感じる今の災害支援の限界は、災害対応が基礎自治体(市町村と特別区)に投げられている点です。

 基礎自治体が対応することは、地域の実情に合わせやすい利点はある。でも、今回の能登のように激甚災害に短期間で複数回見舞われたり、東日本大震災のような大規模かつ広範囲な災害が起こったりする中で、もはや対応ができなくなっていると感じます。

 よく、災害対応の迅速さ、質の高さに注目して台湾やイタリアとの違いを引き合いに出されますが、責任を持ってやるのが国レベルだからできるのです。でも日本はお財布は県や国が持っているけれど、実施するのは基礎自治体。これはもう、いくら頑張っても「気の毒な結果」を生みやすいわけです……。

 ――具体例で教えてください。

雨漏りの起因は地震?豪雨? 

 直近では、豪雨被害で再び雨漏りが多数起こりました。すぐに珠洲市の行政職員に災害救助法対象の「住宅の緊急応急修理」制度が使えるか確認しました。罹災(りさい)証明書の判定に関わらず屋根にブルーシートをかけるなど緊急措置として1世帯5万1500円使える制度です。

 行政職員からは災害救助法が適用になっているので使えます、という返答でした。ですが翌日、内閣府の防災担当から「あくまで豪雨に起因するものしか使えない」と言われたと連絡がありました。具体的に言うと、あくまで、雨漏りが地震ではなく豪雨起因の家屋にしか法律では対象にしていないという解釈です。

 何をもって地震起因なのか…

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この記事を書いた人
山内深紗子
デジタル企画報道部|言論サイトRe:Ron
専門・関心分野
子どもの貧困・虐待・がん・レジリエンス