山内深紗子

デジタル企画報道部 | 言論サイトRe:Ron
専門・関心分野子どもの貧困・虐待・がん・レジリエンス

現在の仕事・担当

言論サイトRe:Ronの編集者として、若者と働くこと、政治、心の健康などについて寄稿やインタビューを発信。音楽活動にとどまらず、命や平和、環境問題などでも行動し続けた坂本龍一さんの連載、児童虐待、がんについての記事も発信しています。

バックグラウンド

サイードの「オリエンタリズム」に触発され、お茶の水女子大で歴史学を専攻。2001年入社。和歌山と神戸総局を経て、主に生活と医療報道を担当してきました。
「ネットカフェ難民」の問題を最初に報じた経験から、子どもの貧困問題を取材し、坂田記念ジャーナリズム賞、貧困ジャーナリズム賞を受賞。39才でがんを経験したことを契機に、いのちとレジリエンスについての記事も手がけています。坂本龍一さんや安藤忠雄さん、栗原はるみさん、市井の方などに大きな困難に直面した時に出会った糧になる言葉や考え、レジリエンス、それがその後の人生にどう影響したのかについてもインタビューを続けています。食や絵本についても関心が高い。 現在は、それらの取材を続けながら、若い方にも関心を持っていただける言論サイトの編集者としての仕事も加わっています。

仕事で大切にしていること

現場を歩き続け、五感で感じ、社会を1ミリでも良くしたり、読み手が深く考え始めたり、力をもらったと思って頂けたりする普遍的で誠実な言葉やファクトを送り出すことを大切にしています。人物や物事を切り取ることへの畏怖の念を持ち続け、不安な時代にあって、心にすっと届き、生きる糧になる言葉や情報であり続けたい。「弱さが持つ強さ」の大切さも意識しながら。

著作

  • 『子どもと貧困』(朝日新聞出版、2016年)=共著

 

論文・論考

  • 『ピアサポートを中心に薬物依存の親を支える米ワシントン州FTCの挑戦』(資生堂財団「世界の児童と母性」、2020年)

タイムライン

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「グリ下」の若者たちの再出発 尊厳ある働き方を諦めない共助を

 異例のスピード解散を経て始まった衆院選も終盤。一票を投じる10月27日に向け、いま、大事にしたいことは何か、さまざまな社会課題と向き合う立場から考えます。  ホームレスのおっちゃんや「グリ下」に吸い寄せられる若者たちが困窮してSOSが届く。「生きる意欲がわかない」と吐露する彼らの再出発に伴走する認定NPO法人「Homedoor」理事長の川口加奈さんに、この選挙や政治についての思いを聞いた。 ■10・27を話そう⑦ホームレス状態の人を支援する川口加奈さん  ――政治に期待は?  投票は毎回必ずします。でも期待しすぎない。ある意味で低空飛行というか。今回も同じで、淡々と諦めずに向き合う、というのが私のスタンスです。  私は大阪で生まれ育ち、14歳でホームレス問題に出合い、ホームレスのおっちゃんたちに仕事を作り、自尊心を再び持って生き生きと生活できるお手伝いがしたいと考えました。ホームレスの人たちの7割ほどが自転車修理を得意としていました。そこで当初は放置自転車を修理して、シェアサイクルとして利用してもらう「HUBchari(ハブチャリ)」事業を起こしました。年間1.5億円規模に成長しました。  ホームレスの人が泊まれる短期シェルター、就労支援を受けながら長期滞在できる施設も作りました。利用者は、高齢男性だけでなく、母子、父子、若者にも広がっています。事業収益は大きな方ですが、多くが個人の寄付により支えられています。 ■若者の相談増、生への諦めも  活用できる制度は使いますが、なければ現実的に対応して、できる範囲でコツコツと取り組んできました。  ――相談傾向は?  年々増加しています。とりわけ若年層の増加は深刻です。昨年度は新規が948人(平均年齢42.2歳)。10~30代が半数を占め、20代が一番のボリュームゾーンです。  家庭環境を調べると、約9割が18歳未満までに、虐待や親の死別、離婚による生活苦などの社会的不利を経験していました。成人後も非正規雇用を転々として困窮状態に陥っていることも判明。精神疾患を抱えている人も多い。  児童福祉法の対象の年齢を超えて、法支援から抜け落ちやすいのが、10代、20代のケアリーバー(社会的養護経験者)の若者たちです。仕事、住まい、貯金がない悪循環に陥り、「死にきれず来ました」と来所される人が多い。彼らは生に執着を持てないでいる。政治に関心が持てず、一票を投じる余裕もない。住民票がない人もいます。  若者が生きることにも諦めモードになってしまっていると、国から活力が失われてしまいますよね。  シェルターでは滞在しながら、次の家探しをしたり、生活保護などの必要な支援や就労につなげていく支援をしたりしています。  民間シェルターが必要な背景として、ホームレス状態からでは生活保護を申請できないことがあげられます。本来は現在地保護の原則から、住所不定であっても申請は可能です。しかし、大阪市をはじめ、いくつかの自治体では、施設に入らないと申請を受け付けてくれない特殊な運用です。  その施設は大部屋で共同生活のため、環境になじめない人も多く、生活保護の申請を諦めてしまう方もいます。そのため、まず生活保護を受給して、必要な場合は通院治療を行い、働ける状況になったら落ち着いて仕事を探すという道が閉ざされてしまう現状があります。 ■淡々とマイナーチェンジ  そこで、私たちのシェルターが必要とされているわけです。行政の職員からこっそり私用電話で「何とか助けてあげて」と連絡が入るケースも珍しくありません。  この20年ほど、子どもの貧困問題や経済や教育格差の是正などが繰り返し議論され、施策としても取り組まれてきた。そして今の状況です。改めて、深刻さをかみしめます。ただ絶望していても仕方ない。  ――どこに問題を感じますか?  若者の困窮者支援は、ネットカフェなどを転々として困窮状態にある人が多いために実態把握が難しく、争点にはなりにくいことですね。  かつてその存在が表面化するのに貢献した「ネットカフェ難民」という名付けと同様に最近では、「グリ下」(大阪・ミナミの道頓堀のグリコ看板下)、「トー横」(東京・歌舞伎町周辺)という名前で認知され始めているところはあり、東京都などは対策を打ち始めましたが、国全体でも若年層の支援に取り組んでほしいです。  私は14歳でホームレス問題に出合ったときから悪循環や制度の目詰まりを変えていけば、良い風が吹くところに行き着くのではと思ってやってきました。仲間が去ったり、資金に困ったりと様々な苦境を経験しましたが、たとえ1人になったとしても、やり続けようと今では淡々と続けています。  それでいいますと、貧困施策について大きく変革がなされたわけではないのですが、マイナーチェンジと新しい道を少しでも作ることは可能だと思います。国や行政ともそういう連携をしていて、政治の世界にも知っていただきたい。  昨年2月、政府の孤独・孤立対策を担当する内閣官房に持ちかけて、ソフトバンクとプッシュ型で支援を届けることができました。  ソフトバンクは料金の支払いが遅れている利用者を対象にSMSを送信していますが、そのメッセージと一緒に、「あなたはひとりじゃない」というウェブサイト(https://www.notalone-cas.go.jp/ )のリンクを掲載することを始めました。  生活困窮、いじめ、虐待、性暴力など、状況や悩みに応じて、約150の支援制度や窓口のなかから、その人の状況にあった支援を探すことができます。  携帯が使えなくなる前段階でとれる選択肢と、使えなくなった後でとれる選択肢では大きく変わります。前者だと仕事や住まいもまだ得られやすい。相談もできる。生活保護制度をはじめとする日本の申請主義(サービスの利用に本人や家族からの自主的な申し出が必要であること)を乗り越えようとするプッシュ型支援のひとつです。今では大手携帯会社がこの仕組みを導入してくれています。  2021年に孤独・孤立対策推進室が内閣官房に設置され、状況が大きく変わったとまではいかないにしろ、あるのとないのとは違います。NPOや気づいた人が、出来ることを提案してつなぐ。こういう取り組みが広がっていけば、少しでも前進していくのではと思います。これからどう施策や支援に落とし込むのか、正念場です。 ■共助がやりやすい環境を  ――「働くことに尊厳が持てない状況を脱する」ことを掲げていらっしゃいます。  2004年に製造業でも派遣労働が解禁され、非正規雇用が拡大しました。同一労働同一賃金の実現は道半ばです。その状況で、おっちゃんも若者も、尊厳を持って働くというより、「金稼ぎの道具」に終始して疲れ果てて生きる意欲を失ってしまっていることに大きな問題があるように感じます。  私たちが目標にしているのは、それぞれが自分に合った仕事を見つけて、長く満足しながら働けるようにすること。相談者が、「生活のため」と焦って、とりあえず早く働けるからと就職してミスマッチに悩みまた辞めるを繰り返すことがあるのです。  就労支援や生活支援を受けてもらいながら、気長にサポートしていくしかありません。  岸田政権が掲げたリスキリング支援が本当に必要なのは、若年困窮者であったように思います。  もちろん、非正規雇用の問題点を本気で解消していく努力もセットです。  ――寄付の状況は?  「Homedoor」の寄付者の中には、かつてご自身も苦境にあった経験のある方も多いです。そのため、物価の高騰の影響で寄付が減ってきています。ハブチャリ事業も競合する他社がでてきて苦戦中です。効果のある物価対策は最優先課題のひとつだと実感します。  新型コロナの収束後も依然として相談者が多く、シェルターの数が足りなくなり、2023年、3億円の借金をして24部屋のホテルを購入しました。長期滞在しながら就労支援を受け、次の仕事を探すサービスを提供していますが、すぐに満室になりました。寄付が集まってから、順次、入居者を増やして稼働させていく予定だったのですが。  行政支援では限界がある、けれど大切な支援をするNPOの活動、つまり「共助」がもう少しでもやりやすい環境作りにも注力していただいたら、ありがたいです。  ――選ぶ基準は?  小選挙区の候補者選びは、政党よりも人物を見て判断しますね。当選経験があれば、国会での発言回数や答弁内容はチェックします。発言していない人を選んでも意味がないですから。  それから、自分の年代や性別と近い人を国会に送り出したいという判断要素もベースにあります。5歳の子を育てているので、貧困や雇用施策だけでなく、子育て施策にも注目します。選択的夫婦別姓も認めてほしいので、もちろん選ぶ軸になります。政治とカネの問題も深刻で何とか変化をという思いも働きます。  今の政治状況を見ていても、大きく物事が改善していくことは望みますが、難しい。だからこそ、若い世代のために、マイナーチェンジでもできることを積み重ねていけるといいなと願っています。  《略歴》かわぐち・かな 1991年、大阪府高石市生まれ。2010年、大阪市立大経済学部在学中にホームレス支援の任意団体「Homedoor」を設立(17年に認定NPO)。21歳で世界経済フォーラムから次世代リーダー「グローバル・シェイパーズ」の一人に選出された。 ■言論サイトRe:Ron(リロン) https://www.asahi.com/re-ron/ ・編集部への「おたより」募集中:https://forms.gle/AdB9yrvEghsYa24E6 ・Xアカウント:https://twitter.com/reron_asahi/

2日前
「グリ下」の若者たちの再出発 尊厳ある働き方を諦めない共助を

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「柱ばかり見ず、くらしを見ているか」誰もが被災者となり得る時代に

 異例のスピード解散を経て始まった衆院選。一票を投じる10月27日に向け、いま、大事にしたいことは何か、さまざまな社会課題と向き合う立場から考えます。  「今の政治に対して、色々な思いを最もお持ちなのは、被災地(能登)の方々かもしれません」  解散前に行われた立憲民主党・野田佳彦代表との党首討論で、石破茂首相が語った言葉です。地震、豪雨と大災害が相次いだ能登・珠洲市で支援を続けるNPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」の橋本笙子さんが被災地から見る今回の選挙、政治に望むことは。 ■10・27を話そう③ 能登で支援する橋本笙子さん  ――この選挙について、どう受け止めていますか?  このタイミングでの解散は、やはり受け入れがたいと表明せざるを得ません。期待する気持ちがあるからこそ、です。  「永田町の論理」というブルドーザーが、特に弱い立場の人たちを絶望させている。この判断こそが、根強い政治不信を上書きしてしまう。そのことを理解しているのだろうかと。政治が大切だと思うからこそ、とても残念です。  昨年5月と今年の元旦の地震、9月の豪雨。激甚災害に複数回見舞われた能登・珠洲市で支援を続けています。被災された方も、支援する行政も、心身ともに疲れ果てています。  今回の豪雨被害で、高齢者もとても心配ですが、生業を持ち能登にとどまろうと踏ん張っていた若い人に「もうダメだ」と思わせたところが強いのではと懸念しています。  まずはライフラインを復旧させ、生活再建を支援することに集中すべきだ。それなのに、政治空白です。投票所をどこに作るか?という頭の痛い対応に時間を取られていくことに、大きな疑問を感じます。  「くらしに寄り添う」を有言実行しているのか。私も含めて多くの国民が、一票を託すべきかどうかの軸にしているのではないでしょうか。 ■被災した時、国は頼りになる?  ――政策で注目するのは。  気候変動の影響も色濃くなり、誰もが被災者になり得る時代に入りました。  被災した時に、国は頼りになるのか? この点を重視します。  私はシステムエンジニアをしていましたが、阪神淡路大震災を契機に、28年間、コソボやアフガン、東ティモール、南スーダンなどの海外や東日本大震災などで災害や紛争によって命やくらしが脅かされる現場で支援をしてきました。  その経験をもとに感じる今の災害支援の限界は、災害対応が基礎自治体(市町村と特別区)に投げられている点です。  基礎自治体が対応することは、地域の実情に合わせやすい利点はある。でも、今回の能登のように激甚災害に短期間で複数回見舞われたり、東日本大震災のような大規模かつ広範囲な災害が起こったりする中で、もはや対応ができなくなっていると感じます。  よく、災害対応の迅速さ、質の高さに注目して台湾やイタリアとの違いを引き合いに出されますが、責任を持ってやるのが国レベルだからできるのです。でも日本はお財布は県や国が持っているけれど、実施するのは基礎自治体。これはもう、いくら頑張っても「気の毒な結果」を生みやすいわけです……。  ――具体例で教えてください。 ■雨漏りの起因は地震?豪雨?   直近では、豪雨被害で再び雨漏りが多数起こりました。すぐに珠洲市の行政職員に災害救助法対象の「住宅の緊急応急修理」制度が使えるか確認しました。罹災(りさい)証明書の判定に関わらず屋根にブルーシートをかけるなど緊急措置として1世帯5万1500円使える制度です。  行政職員からは災害救助法が適用になっているので使えます、という返答でした。ですが翌日、内閣府の防災担当から「あくまで豪雨に起因するものしか使えない」と言われたと連絡がありました。具体的に言うと、あくまで、雨漏りが地震ではなく豪雨起因の家屋にしか法律では対象にしていないという解釈です。  何をもって地震起因なのか、豪雨起因なのか。珠洲市の場合は正月の地震で、無被害の家屋は50軒ほどしかありません。それ以外はすべて被災しているのに、額面通りの法律の言葉にあてはめると、豪雨で使える世帯は非常に限られてしまう。  短期間で激甚災害が続けて起こることを法律が想定して作られていない。こういう時に、迅速に政治・国が判断してリードしないと、被災者のくらしは守れません。雨漏りをそのままにしていくと、家が朽ちていきます。そこに住むおばあちゃんやおじいちゃんを目の前に浮かぶのは……くらしを守れていますか?  ――政治や国の判断がより重視されることについて、もう少し教えてください。  「多重災害」は、制度のはざまに落ちる人を多く生みやすくなっています。  生活再建の途中で次の災害にあっていて、借金が重なっている。能登では昨年の地震後、もう大きい地震はないだろうと12月までに家を新築して、住んだのは2週間だけで今度は正月の地震で壊れて、金沢市に二次避難。一方で、ローンの返済が容赦なく始まる人もいる。  仕事の再建も支援が十分ではなくなっています。政府の「なりわい再建支援補助金」は、自己資金が25%必要です。多くは借金して作るわけです。今回の豪雨では、地震で何とか借金して再開した飲食店、工場経営なども再びダメージを受け、再び借金を重ねないと続けていけない。もちろん、日本は自然災害が多い国なので、公でカバーできることに限界があることも理解しますが、現状の災害救助法や被災者生活再建支援法では、生活再建が極めて厳しい。  こういった現場の実情を国も県ももっと積極的に把握するべきです。百歩譲って、上にあげたことには真摯(しんし)に耳を傾け、くらしレベルでの影響を見て施策を打っていかないと。  今の状況ならば、数日間、党首や決定権を握る人たちが選挙で信を問う前に、被災地で生活してみた方が良いとさえ思います。  ――国、県、市区町村、民間の連携も課題だと指摘されています。  能登地震で大規模に実行された「二次避難」(避難生活を送るための施設に移動する)は、必要な施策でした。ただ、現状では二次避難について、県は事務局を旅行会社に委託しました。そして突然、夏ごろに市町に「戻ってくるよう促して」と声をかけた。  二次避難者に対して、仕事、教育、生活再建についての道しるべがなかったのは、ケアが足りていないです。これも被災者が安心できる仕組みをつくるために、国レベルで二次避難者に対しても一定の道しるべを示す必要があると思います。  珠洲市での支援の合言葉は「柱ばかり見ないで、くらしをみよう」です。  家屋の罹災判定は、元旦の地震については厳しかった。罹災証明書の判定も、柱だけ見て、「そこで暮らせるか」については二の次だった印象を持ちます。  政策や法律があっても、国民のくらしや命を守るためのものとして働くのかは、意見を言い合える土壌も必要だという意識を持てているかも重要だと思います。国力が低下していて、守りに入る局面にあるからこそ、忖度(そんたく)がはびこりやすいからです。 ■基準を守るための勇気  ――忖度とは?  災害支援は、国、県、基礎自治体、民間の連携が欠かせません。実際の現場では、下のレイヤーから上にお伺いを立てる時に、忖度があふれています。すると、被災者のための迅速で的確な判断は難しくなる。貧すれば鈍す、になっている国では、「的確」「適切」の基準も放っておけばどんどん下がっていく。そこに市井の人たちは翻弄(ほんろう)され、深く苦しむ構図が深まっています。  気候変動の影響で災害が激甚化しているのに、支援の構造やマネジメント文化の土壌が古いままでは、絶望や分断が大きくなるでしょうね。  珠洲市で元旦の地震の直後、断水対策として給水地点を、お年寄りが多いことを考えて44カ所にしました。それに対して「輪島は9カ所なのに」という意見が出ました。でも、被災者の立場に立てば、珠洲の数の方が適切に近い。守りに入りそうになるところ、自分だけ良ければとなるところを、意見が言い合う勇気を持ち、より良い結果を目指すことを諦めないことが重要になってくると思うのです。  議会政党制では、数の論理と忖度がはびこりやすいのですが、逆バネをより意識しているか。そこは投票で政治家に示せる選択を吟味することも大切だと思います。  ――政治に絶望したくなる思いと、どう向き合っていますか。  正直、日本という国は大丈夫だろうか……と立ち尽くす思いがすることが多いです。  被災地のこともそうですが、望んで介護職に就いた私の子どもの給与はずっと10万円台。国として、何を優先して大切にすべきなのか、考え込んでしまうことも多い。  能登で被災した方々がまだ頑張れているのは、自助と共助が大切に守られてきた地域だからです。今回の「政治空白」も耐えるでしょう。耐えるしかない。  公助をしっかりとさせないといけないのですが、今の状況のままであれば、これからを生きる私たち、そして子どもたちは、自助や共助にもより一層目を向けて自衛しなければ、命やくらしは守れないでしょう。  でも、それでいいのかと思います。  本来の「安心」というのは、違う。だから、投票は続けます。この現状を、政治を政治家や既得権益、政党のために私物化するのではない道を本気で目指してほしいです。  《略歴》はしもと・しょうこ 1965年、東京都生まれ。NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」国内事業部次長。SEとして8年勤務した後、阪神淡路大震災を契機に国際協力NGOへ。2020年から現所属。 ■言論サイトRe:Ron(リロン) https://www.asahi.com/re-ron/ ・編集部への「おたより」募集中:https://forms.gle/AdB9yrvEghsYa24E6 ・Xアカウント:https://twitter.com/reron_asahi/

「柱ばかり見ず、くらしを見ているか」誰もが被災者となり得る時代に

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秋の顔つきも変わった、「気候変動」の話をしよう リロン編集部から

 秋の顔つきも変わってしまったのでしょうか。お彼岸を過ぎても真夏日あり、11月並みの気温の秋雨あり……。エコバッグを持って買い物に行くと、天候不順の影響で高値が続く野菜や果物を前に、「不安だ」とモゴモゴ言いながら熟慮して品物を選ぶ日が続いています。  この夏、体温ほどもある気温と格闘しながら、ふと思いました。「日々、お天気のチェックは欠かさないのに、気候危機への関心が高まりにくいのはなぜ?」。大きなテーマではありますが、Re:Ronでは8月から「コミュニケーション」を切り口に、特集「気候変動の話をしよう」を始めました。  日々の気象情報と気候変動をセットで伝える取り組みを続ける気象キャスターの井田寛子さんや、環境活動家グレタ・トゥンベリさんに触発されて格差問題も交えた「気候正義」を伝えようと模索する黒部睦さん、在学中に長野・白馬高校の断熱化に取り組んだ手塚慧介さん=写真=、「お得」を切り口にエコな取り組みを広げようとしている元環境事務次官の小林光さんに、話を聞いています。  「正義」だけでは伝わりにくい今の時代。そこをどう乗り越えるのか。猛暑や豪雨が続いても、気候変動への取り組みはなかなか盛り上がりません。東京都知事選、各党の党首選でも環境対策は奥ゆかしすぎる脇役でした。今回の総選挙では、どうでしょうか。欧州でも、数年前に盛り上がった若者の気候正義運動は、以前ほど元気がないように見えます。  待ったなしの局面にあって、少しでも関心が高まるための一助になれるよう、息長く続けたいと思っています。 ■言論サイトRe:Ron(リロン) https://www.asahi.com/re-ron/ 編集部への「おたより」募集中:https://forms.gle/AdB9yrvEghsYa24E6 Xアカウント:https://twitter.com/reron_asahi/

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