世界的に都市の緑の価値が再認識される中、国内では街路樹や公園樹が減っている。
国土技術政策総合研究所の資料によると、国内の一般道路沿いの街路樹は2002年の679万本から22年には629万本に。自治体は予算不足や安全対策を理由に伐採を進める。しばしば「量から質への転換」と説明されるが、実現するのか。妥当なのか。
「街路樹は問いかける」などの著書がある藤井英二郎・千葉大名誉教授に聞いた。
「負の循環」とは
――昨年ビッグモーターの問題で、店舗前の枯れた街路樹に注目が集まった。
問題発覚後、道路管理者の自治体などが損害賠償を求めているが、数年前から枯れているものもあったという。なぜ気がつかなかったのか。まず身を正さなきゃいけない。
――街路樹の維持管理は民間に委託されていることも多い。専門的な知識のある行政職員は少なくなっているのか。
減っている。大学で造園を学んでも、現場で経験を重ねて知見を増していかなきゃいけない。定期異動を繰り返すので、業者に適切な発注ができず、結果の適切な評価もなされない。業者の質も下がる、負の循環です。
ただ、仙台市は努力して技術を維持しようとしている。実際に木に登って剪定(せんてい)できる職員が中心になって講習会をやってきた。
――「負の循環」によって、街路樹に影響が出ているのか。
生育について考えられておらず、機能もしっかりと果たすようには維持できていない。以前に比べ、枝を切り詰めるようなひどい剪定が多い。木を腐らす菌が入りやすくなり、倒れるリスクも高くなる。
担当者が機械的、短絡的に発注しているのだろう。例えば「店の看板が見えない」という苦情を受け、枝葉の張った街路樹を鉛筆のように剪定させる。本来は「下枝が高くなっていれば、お店は十分見える。お客さんは暑い中を歩いて来られる。木陰がなかったら困るでしょう」と言わなきゃいけない。
苦情ばかり聞くので、大きなケヤキやイチョウは新たに植えられず、枝葉を広げないハナミズキのような木ばかりになっている。
熱中症対策は
――安全対策を理由にした伐採もあるが、熱中症対策の効果は軽視されている。
街路樹の効果を詳しく知らない方も、直射日光を浴びて暑いことは実感されてるはず。実際に熱中症で亡くなる方は急増してます。
この暑さの中で頼りになる木陰を減らすのは、お金をかけてわざわざ衣服を脱いで裸で歩くようなものですよ。
――海外では立派な街路樹が並ぶ街でも、さらに木を増やそうとしている。
世界の状況から見れば日本人はなんで住みにくくするんだと、あぜんとします。
7月に発表された東大の論文によると、東京都区部の樹冠被覆率は2013年が9.2%、2022年が7.3%と減っている。今世界では30%を目指してる都市が多い。
被覆率を30%まで高めることで、暑さによる死亡者数を約40%減らすことができるという医学誌ランセットの論文もある。
歴史をさかのぼって考えると…