「分断深めても見過ごせなかった」 奈良教育大付小前校長、思い語る

聞き手・机美鈴
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 書道の授業を行わないなど、学習指導要領に沿わない指導が指摘された奈良教育大付属小学校(奈良市)で、奈良県教育委員会から派遣された小谷隆男・前校長(58)=現・県教育次長=が離任を控えた3月中旬、朝日新聞のインタビューに応じた。教員の出向をめぐり、「校内外で分断を深めてしまったが、見過ごせなかった」と語った。

 ――昨年4月に下市町教育長から校長に転じた。いかに問題に気づいたのか。

 着任後、年間の指導計画やクラスの時間割、教員の授業担当表を確認できないことにまず疑念を持った。職員会議で改善を指摘しても聞き入れてもらえない。職員室に校長の席を置きたくてもかなわず、対話もままならなかった。校長を中心に据えた組織ではなく、信頼を得るのは想像以上に難しかった。

 それでも大学と協力して是正できればよかったが、調査委員会が発足し、文部科学省に報告が上がり、外部に報告書を公表する事態に。予想以上に大ごとになってしまった。

 ――なぜ調査委員会ができたのか。

 教科書を「主たる教材」として用いていなかったことなどを県教委が問題視した。教科書使用の指導権限は県側にある。究明を求める通知が大学側に届いた。

 ――調査の結果、8教科で不適切な指導が認定された。一方、教育研究者たちは「法令違反とまで言えるかは検討が必要」とする声明を発表している。

 学習指導要領は最小限の目安であり、それなりに幅を持たせて運用されているのが実態だろう。ただ、ここで起きていたのはそういうレベルではない。

 ――どういうことか。

 「毛筆」の指導がなく、「外国語」は「言語・文化」に名前を変えていた。「道徳」の教科名やねらいも子どもたちは知らされず、「全校集会」に置き換わっていた。いずれも教科書はほとんど使用しない。学習指導要領は全国どこで学んでも基本となる学習を保障するためにあるはずだが、これほどの状況はどこにもないのではないか。

 また、一般的な「朝の会」を国語の授業にカウントして週の授業数を1時間少なくし、その時間は教員の会議にあてられていた。

 ――なぜこうなったと考えるか。

 教員たちは「みんなで決める」との理念を有し、職員会議は毎週3時間半に及び、特別活動の児童会づくりにもじっくり取り組む。時間を捻出したかった面があったのではないか。人事の流動性がなく、独善的になっていたと思う。一方、大学も現場任せで十分に管理できていなかった側面は否定できない。

 ――付属小の教育を是正する目的で着任したのか。

 決してそういった使命があったわけではない。当初は2年の予定だったが、1年で県に戻ることになった。混乱の中で学校を去るのは心苦しい。

 ――今春から初めて教員を出向させる。どうなるか。

 正規採用19人のうち、初年度は3人が奈良市立小に出向し、1人を奈良女子大付属小に配置転換させる。原則3年後には戻ってくる。他校での経験を今後の教育に生かしてほしい。

 後任は県などから派遣された教員を配置するが、現時点で単年度採用の教員が数人見つかっていない。影響は最小限にとどめたいものの、このままだと特別活動や行事など、質や内容を維持できないおそれがある。

 ――欠員が出ない程度の規模に出向をとどめることはできなかったのか。

 今回の出向と欠員は直接的には関係ないと思う。大学は近年、正規採用を抑え、単年度採用を進めている。全国的な教員不足が影響している。

 ――出向者はいずれもベテランだが、どう選んだのか。

 異動の最終的な権限は私にはないので答えられない。

 ――保護者は大規模な出向をやめるように求め、3月19日にあった保護者説明会は6時間に及んだ。署名運動は全国に広がり、有志の署名は7千を超えた。

 保護者はこの学校を選んだ立場から、現状維持を望むだろうし、不安があることも理解している。ただ、この出向はこれまでの教育を否定するものではない。新しい出発を温かく見守り、支えていただきたい。

 ――文科省は全国の国立大学に付属学校の点検を命じるなど、波紋を広げた。

 影響の大きさは感じるが、こうならざるを得なかったのではとの思いもある。後任の校長は、新しい付属小の教育を着実に進めてほしい。

 ――付属小は独自の取り組みが評価されてきた。

 確かにその通りだ。一人の教員として教育内容を評価している。自分の意見をはっきり言える子が多く、主体的に活動し、のびのび明るい様子は誰が見ても評価に値すると思う。児童会活動や平和学習も、これだけきめ細かくやっているところは他にない。

 子どもたちに悲しい思いをさせてしまったことは、これまでの教員人生で、かなりつらい対応となった。

 文科省から特例校の指定を受ければ、特色ある取り組みを継続できる。ルールを守って独自の教育を進め、信頼される学校になってほしい。自分の思いはそれに尽きる。

     ◇

 同小を所管する奈良国立大学機構は3月29日、小谷氏を含む8人の処分を発表した。小谷氏に処分への見解を尋ねたが、回答はなかった。

 同小には1日、遠藤孝晃校長が着任した。葛城市立小学校校長を退職し、大学が新たに採用した。(聞き手・机美鈴)

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