肌が白くきれいな人でした 「寅さん」になる前の渥美清さんとの会話
色の白い、肌のきれいな人。1967年10月7日、渥美清さんと会った日の印象を松山市堀江町の主婦高橋正美さん(87)は忘れていない。57年前になるが、日付まで覚えているのは、毎年同じ日に行われる秋祭り、松山地方祭の当日だったからだ。
映画「喜劇団体列車」の撮影が、当時の国鉄予讃線堀江駅で行われていた。駅前でうどん店を経営する義姉から電話で呼ばれた高橋さんは、駅員の衣装のまま店で休憩していた渥美さんの話し相手になった。
渥美さんは39歳、高橋さんは31歳。隣の席に座り、「映画は次から次へときれいな女優さんとご一緒できて、いいお仕事ですよね」「いや、そんなことないですよ」。1時間ほど、たわいのない会話を楽しんだ。
撮影は翌日もあり、再び来店した渥美さんが「昨日のお姉さんは来てないの」と尋ねた。高橋さんは呼び出され、義姉が祭りで用意した餅を勧めながら、おしゃべりに興じた。結婚して子どももいた高橋さんは「隣のおじさんぐらいの感覚でした」と振り返る。
渥美さんは翌年のテレビドラマ「男はつらいよ」で車寅次郎を演じ、国民的俳優への道を歩み出す。そんなスターにも、高橋さんは記念写真やサインを求めることはしなかった。ささやかな思い出を胸の中にしまい、人に話すこともなかった。それでも渥美さんの映画を見るたび、あの日の記憶がよみがえる。
「映画そのまま、気取らず話しやすい方だった」
「どうぞどうぞ」 先輩に譲る渥美さん
堀江駅は劇中では「伊予和田駅」。多くの客車を連結したC58形蒸気機関車が到着すると、渥美さん演じる駅員が「伊予和田、伊予和田ーっ」と、素っ頓狂な声を上げた。高校生らが改札口を足早に通過する。菓子や雑誌が並ぶ鉄道弘済会の売店も映る。四国のローカル駅のかつての日常風景を映画は残した。
駅員らも撮影の様子を気にしていた。
「6畳ほどの宿直室が控え場…
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