HIV「陽性」、刑務所が1年間知らせずエイズ発症 国が男性と和解

田中恭太
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 横浜刑務所で服役していた男性(53)が、刑務所の対応の不備でHIV検査の「陽性」結果を1年以上知らされず、治療が遅れてエイズを発症したなどとして、国に6600万円の損害賠償を求めた訴訟があり、東京地裁で21日、和解が成立した。国が解決金100万円を支払う内容で、「遺憾の意」を表して再発防止を約束したという。

 男性や訴訟資料によると、強盗事件で懲役13年の実刑判決が確定した男性は2013年4月、希望して刑務所内でHIVの1次検査を受けた。しかし、繰り返し求めても結果は知らされず、2次検査も行われなかった。

 約1年後、刑務所から「冷凍保管していた血液が使えなくなった」などと伝えられて検査をやり直したところ、1次も2次も陽性の結果が出た。

 男性にはこの間、右半身のまひなどが起きていた。検査結果を受けてHIV治療が始まったが、「悪性脳リンパ腫」と診断され、エイズを発症していたことがわかった。

裁判で対応の不備が判明

 男性は17年に提訴。裁判で国が提出した資料で、最初の1次検査の6日後には陽性の結果が出ていたことが判明した。だが、職員が2次検査の機関に検体を送るためのケースを発注するのを失念し、その後も発注を先送りしたため、男性に結果を伝えないまま約1年が経過したという。

 男性は今年1月に出所したがまひは残り、杖が欠かせない状態が続く。

 裁判で国側は「1次検査で陽性でも疑陽性が出る可能性がある」「2次検査を怠ったからエイズを発症したとは断言できない」などと反論した。

地裁「極めて遺憾な事態」

 地裁は8月、「社会一般の水準に照らし適切な医療上の措置を講じることを定めた刑事収容施設法に照らし、極めて遺憾な事態と言わざるを得ない」として、和解を勧告。国側は事実上、対応の不備を認める形で和解した。

 男性の代理人で、NPO法人「監獄人権センター」の高遠あゆ子弁護士は「こうした和解勧告が出るのは異例で、実質的な勝訴と受け止めている。(背景には)刑事施設の医療体制の不十分さ、HIVや医療全体への意識の低さがあると思う」と話した。田中恭太

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