ヤフーはメディアに対して「優越的地位にある可能性」 公取委が調査

村井七緒子
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 公正取引委員会は21日、ヤフーなどのニュースプラットフォーム(PF)事業者と、記事を提供する新聞などメディア各社の取引実態の調査報告書を公表した。消費者がPF経由でニュースを読む機会が圧倒的に増えるなか、特にヤフーについて「優越的地位にある可能性」を指摘。記事の使用料が著しく安い場合は「独占禁止法上問題となる」と警告した。

 公取委は昨年11月から、新聞社や出版社など220社と、消費者2千人にアンケートを実施。ニュースポータルサイト検索サイトを運営するPF事業者7社に聞き取り調査をした。調査の狙いについて報告書は「ニュースが国民に適切に提供されることは、民主主義の発展において必要不可欠だ」とした。

 メディアが受け取る使用料の総額からみたニュースポータルのシェアは、ヤフーニュースが40~50%で約半分を占め、LINEニュース(20~30%)、スマートニュース(10~20%)と続いた。

 公取委はヤフーニュースがメディア事業者の約6割にとって最大の取引先となっており、消費者の約2割が最も利用している点を重視。ヤフーを名指しして、メディアに対し「優越的地位にある可能性がある」と指摘した。ヤフー以外のPF事業者についても「優越的な地位にある可能性は否定されない」とした。

 PF事業者は、メディアから記事などを仕入れ、それらの閲覧回数(ページビュー、PV)に応じた広告収入を広告主から得ている。メディア各社には記事の使用料を支払っているが、個別契約のため適正価格の水準や決定根拠がわからず、メディア側には公平な交渉ができないと不満があった。

 公取委は、ニュースポータルを運営するPF事業者の6社がメディア各社に支払う記事使用料の平均値も初めて開示。1千PVあたり124円で、使用料が最も高いPF事業者で平均251円、最低は49円と5倍の開きがあることも明らかにした。

 メディアが自社のウェブサイトの記事に掲載した広告で得られる収入は1千PVあたり352円で、PFの記事使用料の水準はこの約3分の1にとどまる計算だ。

 一方、ニュースポータル上の広告収入総額に占めるメディアへの記事使用料の総額の割合は、21年度でPF事業者1社あたり平均で約24%にとどまっていた。

 報告書は、メディアがPF側に記事を提供する理由で最も多いのは「自社サイトへの送客の期待」(29・8%)だとも指摘。実際にメディア17社のウェブサイトへの流入元の約4割はPFのポータルサイトからだった。一方で、ポータルサイトにとっては、PV数に占めるメディアの自社サイトへの送客数は約9%だった。

 公取委は、立場の強いPF事業者がメディア各社との契約内容を一方的に変更したり、著しく低い使用料を設定したりすることで不当に不利益を与える場合、「独占禁止法上の優越的地位の乱用にあたる」とも指摘した。さらにメディアが不利になりうるレイアウト変更や、ニュース表示の選定を巡っても、不十分な説明や協議でメディアに不利益を与えれば、「独占禁止法上問題となる」とした。

 また、消費者がニュースに触れる機会も調査。検索サービスが54・4%で最も多く利用され、ニュースポータルの34・8%を上回る実態が明らかになった。欧米では、検索結果などに記事リンクを表示させれば、メディアに使用料を支払うようグーグルなどに義務づける動きがある。日本でも今後、同様の議論が始まる可能性もある。

 公取委は事業者間の交渉の進展を注視するとしたうえで、独禁法上問題となる案件があれば厳正、的確に対処する方針。今回の調査を受け「質の高いニュースコンテンツの提供が持続的に維持発展していくよう、公正な競争環境を整備する」としている。(村井七緒子)

     ◇

 公取委の調査結果を受けて、ヤフー広報は「報告書の内容を精査した上で、しかるべき対応を検討したい」とコメントした。

 日本新聞協会の中村史郎会長(朝日新聞社社長)は21日、公取委の報告書について「プラットフォーム事業が報道機関の経営に影響を与えていることは、民主主義の根幹を揺るがしかねない世界的な課題になっている。公正取引委員会が指摘した点を含め、プラットフォーム事業者は報道機関との取引や関係の適正化に向けて誠実に対応するよう求める」とのコメントを出した。

公取委の報告書骨子

・ニュースポータルサイトの運営事業者がメディア各社に支払うニュース使用料の平均は1千PV(閲覧数)あたり124円(最大251円、最少49円)

・消費者がニュースを得るサービスは検索サイトが54%、ポータルサイトが35%。報道機関などのサイトは計2%にとどまる

・ヤフーはメディア各社に対し、優越的地位にある可能性がある。その他のポータル運営事業者も優越的地位にある可能性は否定されない

・ポータル運営事業者はメディアに対し、記事の使用料の決定根拠などを開示することが望ましい。一方的な契約変更などにより著しく低い使用料を設定する場合、独占禁止法上問題となりうる

・ポータル運営事業者が十分な説明なくレイアウトや表示基準を変更したり、メディアが求める協議に応じなかったりして不利益を生じさせる場合、独禁法上問題となりうる

・検索サイト事業者は、抜粋形式での記事利用などに対する使用料について十分な交渉を通じてメディア各社と共通認識を得ることが望ましい。一方的に著しく低い使用料は独禁法上問題となりうる

・メディア各社が記事使用料の条件をめぐりデータの開示を共同で要請したり、消費者により認知されやすいレイアウトへの変更を共同で要請したりする行為は独禁法上問題とならない

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    大川千寿
    (神奈川大学法学部教授)
    2023年9月21日19時27分 投稿
    【視点】

    今の私たちにとってニュースとは何でしょうか。スマホに見出しが出ているリンクをクリックして、早ければ5秒~10秒ぐらいでササッとチェックできる、安く、多くはタダで手に入るものということでしょうか。 情報社会といわれる中、私たちは本当に情報を

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    曽我部真裕
    (京都大学大学院法学研究科教授)
    2023年9月22日8時11分 投稿
    【視点】

    この報告書が公表されたまさにそのとき、宮崎市で開催されていたメディア関係者の全国大会で、ヤフー社の担当者も参加した分科会を一般参加者として聴講しておりました。  まず、別の記事にある和久井理子教授も指摘されているように、公正取引委員会が「

    …続きを読む