社員が「会社は」と語る時 AI声解析で浮かんだマネジメントの問題
Re:Ron連載「松本紹圭の抜苦与楽」 第2回
「会社が私たち社員のことを全然考えてくれないんです」
産業僧としてクライアント企業で働く社員と一対一の対話をする際、その方が発する言葉の中で気にかかるものがいくつかある。そのうちの一つが「会社が」だ。
「会社の考えがよくわからない」
「会社が決めたことだから仕方ない」
そのように社員が語る時、その会社とは一体なんなのか。
言うまでもなく、その時の「会社」は他でもない、自分が働く会社のことだろう。
会社は人によって構成されるものだから、そこには本来、具体的な人の顔があるはずだ。にもかかわらず、あえて「会社が」と社員が発する時、「社長が」「上司が」とはまた違ったニュアンスが、そこにはある。
社長でも上司でもなく、何か顔の見えない巨大なシステムの中で、濁流にのみ込まれた落ち葉のようになすすべなく翻弄(ほんろう)される、無力感。「会社」という訳語が当てられた英語の「company」にもともと含まれていたはずの「仲間・友人」のニュアンスは、限りなく薄くなっている。
はて、その声には何か特徴が表れているだろうか。
社員との対話、AI音声感情解析でわかったこと
AIの音声感情解析ツールを使い、対話の音声データに目を通す。「音を観(み)る」ことから、私たちはこの技術を「観音テック」と呼んでいる。人の声、話の内容ではなく音声の波形から、その瞬間の声に含まれる感情成分(Joy、Anger、Sadness、Excitement、Calmなど)を解析するツールの開発が各地で近年進められ、医療用にも活用されている。
なるほど、その声には強めのAngerがにじんでいた。「会社が」は、社員とマネジメントの距離が遠ざかっているシグナルだ。
かといって、特定の社員が全社員の目線を代表するわけでもない。
今回、社員と産業僧との一対一の対話に「会社が」という言葉が出てきたこの企業は、カリスマ的な創業社長のもとで、業績が一時的に悪化したり後継者難に悩んだりする企業を相手に積極的にM&Aを仕掛け、急速に成長してきた。
カリスマ社長の直下には野武士のようなビジネスの猛者たちが集まっており、M&A案件のハンティングと業績のV字転換に日夜いそしんでいる。この企業では、ハイリスク・ハイリターンの修羅場で戦う野武士たちが稼ぎ手として組織の上位レイヤーに君臨しており、その戦いを後方から支えるバックオフィス業務に従事するチームとは、制度的にも文化的にも大きな隔たりがある。
先に紹介した「会社が」と発言した社員は、バックオフィス業務のメンバーだった。一方、野武士たちとの僧侶対話からは、まったく違った会社の景色が見えてくる。
「影響力のある仕事にやりがいを感じますし、結果も出ていて、満足しています」
「公私ともに、大きな悩みはありません。しいて言えば、今の会社を辞めて独立するタイミングかな」
声を「観音」すると、全般にJoyやExcitementが多く含まれている。「会社が」という言葉も出てこない。自分が会社を動かしているという実感の表れだろう。
産業僧として企業の社員と対話するとき、一つ一つの対話そのものに、二つの機能があると感じている。
一つ目の機能は「ケア」だ…
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