ジェンダーを理由に怒りを我慢? 社会が変わるためRe:で紡ぐ言葉
「バックラッシュのときこそ、自分たちの言葉をつくりたい」と語る、フェミニズム専門の出版社「エトセトラブックス」代表で編集者の松尾亜紀子さん。「ジェンダーを理由に怒りを我慢させられたことはありますか? 社会がどう変わればいいと思いますか?」という松尾さんの問いかけに対して、読者から「怒り」や「声を上げること」をめぐる様々な意見が寄せられました。さらに一歩進むため、松尾さんが紡ぐ「Re:」の言葉とは――。
◇世の中的に怒りというものにネガティブな印象があって、常になにかを我慢している気がします。とくに怒っている女性をヒステリーだと冷笑する雰囲気が今でもあると感じます。それを若い頃から学習してしまい、差別的な感情を内面化していたことを猛省しています。怒っていいんだよ、ノーと言っていいんだよ、そして生きやすい社会をつくろう、ということを社会全体で共有したいです。(40代女性)
【松尾さんのRe:】女性たちが怒っているだけで、「感情的にヒステリックに怒っている」という言い方をされてその声を封じ込められてきた。もちろん怒っていいし、NOと言っていいのに、ヒステリーであるかのように思い込まされてきたと感じます。どうしてそういうことを言われてきたのかを考えるといいかもしれません。
雑誌「エトセトラ」の2号目で特集した田嶋陽子さんが象徴的だと思いますが、私も大学生の時に「TVタックル」などを見ていて、周りの男性や司会者は冷静で、田嶋さんだけがヒステリックに怒っているというイメージがありました。
だけど、フェミニストの自覚ができてジェンダーのことを学んで当時の映像を見直してみると、田嶋さんは社会の性差別に怒って、フェミニズムに基づいた指摘をすごく理路整然と語っている。むしろそれに対して感情的に怒ってわめいているのは周りの男性たち、という構図が見えてきた。女性が男性に対して何かモノを言うと、そういう風に転換させられてしまっていた、と今になって思います。
より強いものに立ち向かう言葉を
◇怒りを発すると「私だってこんなにつらいんだから、あなたたちばかりが主張するな」というような言説をSNSでよく見かけます。傷(ついていることを)をマウントしあっても何の意味もないのに、どうしてそうなってしまうのかな、と思います。(40代女性)
【松尾さんのRe:】あまりにもいま社会全体がつらい状況にあるので、傷ついている者同士が責め合いがちになる。自分たちの声が社会を変えていく、この社会のシステムを少しでも変えられる、という経験や体験がないと、いつまでもどっちがよりつらいか、という話になってしまう。
誰かを責める前に、それは誰が使ってきた言葉なのかと少しだけ立ち止まれたらいいですよね。フェミニストや、差別に抵抗してきたひとたちが言ってきた「誰かの足を踏むな」「自分の特権に気づけ」などの言葉が、SNSで一般化されて、逆にマジョリティーが使い始めるということがままある。例えば、差別された側が多様性を訴えたら、差別した側も「自分たちも含めて多様性じゃないか」みたいなことを言ってくる。あるいはマジョリティー側が「(平等のために)LGBTということばがなくなる世の中がくるといい」とか平気で言う。
マイノリティーがつくってきた言葉をマジョリティーが簒奪(さんだつ)して使うような状況があるときに、どちらが被害者か言い合うのはやめて、私たちをこういう状況に追いやっている、より強いものに立ち向かう言葉を一緒に作っていかなければいけないと思います。
◇私が日本人で健常者の女性として言葉を奪われてきた経験よりも、さらに不当な経験をされてきた女性たちに出会うことがあります。自分自身の属性から、制度的差別に構造として加担してしまっていることに目を背けずに、色々な立場の人たちとどのように連帯できるかを考える日々です。自分の加害性を否認せずに、男性中心主義の社会にはギャンギャン言っていって、小さな声には耳を傾ける(いうのは簡単だけど、行動は難しい!)を実践することが大事だと思っています。(40代女性)
【松尾さんのRe:】「自分の特権」から目を背けてはいけないということは本当に大前提ですよね。そうでないと、より小さな声に耳を傾けることができません。ただ、自分に特権があったり、自分に加害性があったりするから、さらに不当な経験をしてきた人とつながれないというのもまた、誰かを属性でしか見ていないことになります。
置かれている立場、権力関係…
【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら
- 【視点】
今年国際NGOプラン・インターナショナルで出版した書籍『おしえてジェンダー!「女の子だから」のない世界へ』の執筆を担当したのですが、繰り返し書いたのは、「私たちはもっと怒っていいんだよ」「嫌だと言っていいんだよ」ということでした。 20代
…続きを読む