「忠実な図」、想定外の弊害 夜の街で…不注意で県外に…掲載中止
連載「コロナ禍と出会い直す 磯野真穂の人類学ノート」(第11回)
前回まで
前回は、福井新聞の「感染者の相関図」が掲載された背景や、それがもたらした感染予防の意識について現地での取材を元に振り返った。
2020年4月19日、福井新聞でコロナ取材に関わり感染者相関図の作製にも携わった堀たちの元に県から非公式で要請が入った。この図に掲載されることをためらい、感染者が行動履歴を話さなくなっている。業務に大変な支障が出ているため掲載をやめてほしい、という内容であった。
相関図掲載を同年6月6日に福井新聞自身が振り返った記事にはこうある。
《ある保健師は「新聞掲載を恐れ、新たな感染者は過去に誰と接触したかについて口を閉ざしてしまう恐れがあった」。取材した感染者の1人からも「相関図の連日の掲載が誹謗(ひぼう)中傷の一因になった」と批判を受けた。》
堀たちは、ゴシップを広めたいわけでも、誹謗中傷の種をまきたいわけでもなく、あくまで新型コロナがどのような病気であるかを知らせたかった。
しかもやっていたことは、県の公式発表を忠実に図式化しただけだ。しかしそれが問題になっている。
「楽しみにしていたのに何でやめたんや」
図の掲載をやめるかどうかについては社内で多少の議論があったと、当時、堀の上司として現場記者の声に耳を傾けていた編集局の泉は振り返る。
新聞は実名報道を原則とするメディアであり、実名報道はたとえそれが報道された本人に悪影響を与えたとしても、それを上回る社会的意義があると判断されるからこそ行われる。しかも今回は実名報道ですらない。
これまでにないほど読者から好評を得ている図、つまり社会的意義があると感じられる情報を、県から要請されたといって直ちに差し止めていいものなのか……。
議論の結果、堀たちは、まず…
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