第3回自衛隊は沖縄戦とどう向き合ってきたか 内部研究で導かれた「教訓」

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棚橋咲月

 防衛省防衛研究所で沖縄戦をはじめとする戦史を長年研究してきた、元陸上自衛隊幹部の原剛(たけし)さん(85)=東京都=は、ある人物の言葉をよく覚えている。

 元陸将の田中義男さん(故人)。

 同じ陸自の先輩で、自衛隊内部で沖縄戦研究を統率する立場にいた。朝鮮戦争から間もなく、米ソ冷戦のただ中にあった1960年代に、国家総動員法を手本とした有事法制や言論・経済統制をひそかに検討するなどして「制服組の独走」と批判された研究の中心人物でもある。

 田中さんはこう言っていたという。

 「自衛隊はドンパチだけじゃだめだ。住民問題についても考えなきゃいけない」

 太平洋戦争末期の沖縄戦で、日本軍は本土攻撃までの時間稼ぎを狙った持久戦を展開。軍民入り乱れての激しい地上戦が行われ、約12万人の住民らが命を落とした。防衛隊員や学徒隊員として動員されるなどして、住民の犠牲が膨らんだ。

 田中さんが中心となって実施した沖縄戦研究がある。60年度の「沖縄戦史研究成果報告」だ。

 陸自の研究として分かっているものの中では、初めての大がかりな沖縄戦研究とされる。日本軍の作戦や住民がとった行動を研究し、将来に備えるのが目的だった。

 「日本が経験した本格的な国土戦は、沖縄戦しかない。だから、今も住民問題を考えるとなれば当時を参照せざるを得ないわけです」と原さんは言う。

 では、報告書で導き出された「教訓」とは、どのようなものだったのか。

検討された「戒厳」と住民動員

 資料から読み取れるのは、住…

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この記事を書いた人
棚橋咲月
那覇総局
専門・関心分野
沖縄、平和
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    木村司
    (朝日新聞社会部次長=沖縄)
    2023年7月12日11時0分 投稿
    【視点】

    先の大戦で、日本政府にとっても、軍にとっても、住民を巻き込んだ国土戦は想定していなかったといわれる。敗色濃厚となるなか、国土戦が現実味を帯びて、大慌てで進められたのが、住民の戦場動員であり、疎開だ。その疎開計画の記録をみていくと、住民の命を

    …続きを読む