応援も批判も背負ってチャイコフスキー国際へ 「丸裸」で至った境地

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聞き手 編集委員・吉田純子

 ロシアで開催中のチャイコフスキー国際コンクールに出場したピアニスト、黒岩航紀さん(31)が、滞在中のモスクワで朝日新聞のインタビューにオンラインで応じ、出場を決断するまでの心の動きと今の思いを語った。

 黒岩さんは1992年生まれ。東京芸大を首席で卒業し、大学院修士課程を経てハンガリーに留学。ファイナル出場は逃したが、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で開かれた選抜者コンサートに出演した。26日にはツイッターで出場に至るまでの逡巡(しゅんじゅん)を打ち明け、「ただただ尊い作品があり、美しい音楽があった。それだけは、自信を持って言えることで、その舞台は私にとっても、音楽への愛が深まるかけがえのないものとなりました」などと感謝の言葉をつづっていた(https://twitter.com/Koki_Kuroiwa/status/1673259728200433664別ウインドウで開きます)。

 ――今回の出場を決めた思いを

 子どもの時からロシア音楽が大好きで、ずっと憧れてきたコンクールでした。スケジュールの関係で(4年前の)前回は応募できず、今年が年齢的に最後のタイミングでした。チャイコフスキー国際はそもそも、出場すること自体がとても難しいコンクールです。予備審査でかなり絞られる。ダメかもしれないけど、出すだけ出してみようと。

 ――ウクライナ侵攻をどのように受け止めましたか

 実は昨年、やはりロシアが主催するラフマニノフ国際ピアノコンクールにも応募していたんです。募集が始まったのが、ちょうど侵攻が始まるか始まらないかというくらいの時期でした。開催される頃にはもう収束しているだろうと楽観していたのです。

 しかし、状況はそうはなりませんでした。6月くらいに予備予選通過の連絡があったのですが、とても行ける状況ではないと判断し、すぐに断りの連絡を入れました。

自分は世界に対して恥ずかしくない人間なのか

 来年のチャイコフスキー国際の頃には良き方向で収まっていますように、と祈るような気持ちでしたが、そうはなりませんでした。今回はもう行われないだろうなと思いつつ、普段どおり演奏会やレッスンをする日常を過ごしていたら、5月半ばに電話で合格を知らされました。正直、ほぼ諦めていたので、本当に驚きました。英語で「参加しますか?」と言われ、あまりにも唐突だったので、反射的に「わかりました」みたいなことを答えて。

 電話を切って、一生懸命冷静になって、考えました。日程は一応空けていましたが、それ以上の準備は何もしていなかったので。自身の演奏会や生徒たちのレッスンの調整も必要でした。何より、あと1カ月の間に著しく状況が好転するとはとても思えなかった。

 私には、妻と幼い娘がいます…

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