石木ダム「地元の了解なしにつくらない」、半世紀前の「覚書」はいま

石倉徹也
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 長崎県川棚町で建設が進む石木ダムの建設予定地の共有地権者らが6日、地元の了解なしでダムはつくらないとする「覚書」を守るよう求める要請書を大石賢吾知事宛てに提出した。

 ダム計画が持ち上がった半世紀前に交わされた覚書。今、この覚書はどう扱われているのか。

 覚書は1972年7月、県が石木ダムの予備調査を始める前に住民側と結んだ。「建設の必要が生じたときは、協議の上、書面による同意を受けた後着手するものとする」と明記。川棚町長を立会人とし、久保勘一知事(当時)と、住民の代表3人が署名押印した。

 ただ、県は3年後の75年、事業に着手。その後、反対住民の土地を収用するなどし、2021年9月に本体工事を始めた。

 6日に県庁を訪れた共有地権者らが県に指摘したのが、この覚書の「不履行」だった。

 建設予定地の一部の土地を共有する地権者らからなる「石木ダム建設絶対反対同盟を支援する会」の遠藤保男代表は「同意していないのに収用地での工事が強行されている」と指摘。「石木川まもり隊」代表で地権者の松本美智恵さんは「県と地元の対立の原点がこの覚書の反故(ほご)だ。県民をあざむくようなやり方だった」と語った。

 支援する会のメンバーは、覚書の有効性をただした上で、ダムの必要性を議論する話し合いの開催を求めた。県の担当者は「要請の内容を知事に伝える」と回答。大石知事と住民との「対話」は平行線が続き、昨年9月から途絶えている。松本さんは「知事はダムの必要性の議論はしないと言っているが、覚書の通り、必要性について納得した説明をしてほしい」と訴えた。

 覚書は、住民らがダム関連工事の差し止めを求めた訴訟で論点の一つになったことがある。

 21年の二審・福岡高裁判決は、覚書があるにもかかわらず、地元の理解が得られていないと指摘。「今後も理解を得るよう努力することが求められる」と見解を示し、県に合意形成の必要性を説いた。

 一方、覚書が存在することにより判決が左右されるわけではない、とも指摘。住民側の控訴を棄却した。訴訟は22年、最高裁が住民側の上告を棄却し、差し止めを認めなかった一、二審判決が確定した。

 事業主体の県はどう考えているのか。

 県土木部の担当者は取材に対し「覚書は今も有効で、履行している」と述べ、覚書に違反する手続きはとっていないとの認識を示した。長年、説明会の開催や戸別訪問などで事業への理解と協力を得る努力を続けてきたとしている。

 さらに「住民の8割以上は用地の提供に応じ、事業への理解は得られている」(担当者)。反対する13世帯約50人に対しては、「ダム事業への理解を引き続き求めていく」と述べた。

 支援する会は7日、県とともにダム事業を進める佐世保市を訪れ、同様の要請書を宮島大典市長宛てに提出した。石倉徹也

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