女性の体に生まれ、男性として生きる丸山さん 地元紙で公表したわけ

国方萌乃
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 【和歌山県】女性の体に生まれ、男性として生きる丸山都さん(32)。自身の性を公表したのは、地元・紀南地域で読まれている地域紙だ。世界中に発信できるSNSではなかった。なぜなのか。

 丸山さんは那智勝浦町出身。小さいころから海でもぐったり、釣りをしたり、男の子に交じって遊ぶのが好きだった。でも周りの女の子もそうだったから、そんなものだと思っていた。

 小学6年生のときにいじめに遭った。女友だちが口をきいてくれない。机に悪口を書かれていたことがあって、そこには「男好き」。「周りと違うことをしちゃいけないんだ」と思った。

 だから、中学校の制服のスカートは「お前は女だ」と突きつけられているようで嫌だったけど我慢した。女友だちの恋バナにも「うんうん」とうなずいた。自分の体が変わっていくことに悩んだが、違和感の正体がわからない。性同一性障害の存在はぼんやり知っていた。でも自分がそうだと認めるのがこわかった。

 そこから解放されたのは高校卒業後、兵庫県の女子大にすすんでから。男女がいるから、そこに「差」が生まれる。女性ばかりの環境で、はじめて自分の性別にとらわれずに過ごせた。一方で、自分が女性ではないこともはっきりとわかった。「僕はこの人たちとちげーわって」

 兵庫で小学校の教員をしたあと、2017年に那智勝浦に帰ってきた。町内のゲストハウス「WhyKumano」を共同で運営している。

 都会は近所づきあいが希薄だが、那智勝浦では10軒先どころか、その先もみんな顔見知り。その距離の近さは少数派にとって息苦しさにもなる。でも海と山と川に囲まれたこの町が好きだから、ここで男として生きていこうと決めた。

 そう覚悟を決めても、丸山さんがこの町で「女性」として生きた18年間が消えるわけではない。「あんたって女なん? 男なん?」と聞かれたり、この人には伝えたけどあの人には伝えていない、といった状況に陥ったり。「これではきりがないわ」と、自分の言葉で正しく自身の性について公表することにした。

 最初はSNSでカミングアウトすることも考えた。でも本当に自分のことを理解してほしいのは、SNSを見ない地元のおじちゃんおばちゃんたち。だから2020年10月、地元紙「熊野新聞」の取材を受け、自身の性について語った。

 新聞に記事が出た翌日、近所のおばちゃんたちのなかには目をそらしてくる人もいたが、「よう言ったね」と声をかけてくれる人もいた。その人の丸山さんの呼び方は、その日から「都ちゃん」から「あんた」になった。

 反響は大きかった。性の問題だけでなく、障害を持つ人や外国にルーツのある人、様々な少数派の人たちから連絡があった。「誰にも言えなくて悩んでいたけど、勇気づけられました」と言ってくれる人もいた。

 それならもっと活動をひろげていこうと、性の多様性を知ってもらうイベント「レインボーフェスタ」を地元で開くことにした。丸山さんがこの町で過ごした子ども時代、悩みぬいた18年間だった。だからこそ、苦しんでいるひとが少しでも住みやすい町になるように。昨年11月にはじめて開催し、今年も開く。

 とはいえ、新聞に記事が出たから、イベントを開いたからといって、みんなが理解してくれるわけではない。いまも近所の人に「女の子なのにそんな髪形して」と言われることがある。そのたびに「男や!」と言い返す。「毎日が啓発活動ですよ」(国方萌乃)

     ◇

 丸山さんが中心となって11月6日、「レインボーフェスタ那智勝浦2022」が開かれる。那智勝浦町浜ノ宮のブルービーチ那智で午前11時~午後4時。三重県のパートナーシップ宣誓制度を利用しているゲイカップルと丸山さんのトークショーのほか、地元ダンスグループのステージなどがある。マグロメンチカツバーガーやクレープなどの出店もある。

 雨の場合は11月13日に延期する。問い合わせは丸山さん(070・4104・1502)。

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