最高裁裁判官の国民審査、在外投票を認めないのは違憲 大法廷が判決

根岸拓朗
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 最高裁裁判官国民審査をめぐり、海外の日本人が投票できないのは憲法違反かが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は25日、「違憲」とする初判断を示した。国民審査権は「選挙権と同様」に保障された国民の権利だと明示した。国会が法整備を怠った「立法不作為」も認めて国に賠償を命じ、原告が次回審査に参加できないのは違法とも認定した。

 裁判官15人が全員一致した意見。最高裁が法令を違憲としたのは戦後11件目で、このうち立法不作為による賠償まで認めたのは2件目。金子恭之総務相は「在外投票を可能とする方策を早急に検討する」とする談話を出した。

 原告は2017年の国民審査で在外投票できなかった5人。大法廷はまず、審査権について「国民主権の原理に基づいて憲法に明記された主権者の権能で、選挙権と同様の性質がある」と位置づけた。

 国が主張する投票用紙を世界中に配る技術的な難しさについては、国政選挙の在外投票が何度も実施されていることなどを踏まえ、解消する手法が「ないとは断じがたい」と指摘。現行の国民審査法が在外投票を認めないことに「やむを得ない理由があるとは到底言えない」とし、公務員を選定・罷免(ひめん)する権利を保障した憲法15条などに違反すると判断した。

 さらに審査権の侵害は後からは回復できないとして「次回審査に参加できないことは違法」と確認し、国に早期の是正を求めた。

 国会の責任については過去に何度も「憲法上の問題を検討する機会があった」と指摘。1998年に国会で在外審査の質疑があった▽2005年に最高裁が、国政選挙での選挙区の在外投票を認めないのは違憲と判断し、法改正がなされた▽憲法改正の手続きを定めた07年制定の国民投票法でも在外投票は認められた――と具体的に列挙した。

 そのうえで17年の国民審査時点での立法措置について「必要不可欠、明白だったのに正当な理由なく長期にわたって怠った」と認定。立法不作為の違法性を認め、原告1人あたり5千円の賠償を国に命じた。

 在外選挙人名簿には、21年9月現在で9万5909人が登録されている。(根岸拓朗)

国民審査とは

 最高裁裁判官の国民審査 憲法79条に基づき、選挙権のある18歳以上が罷免(ひめん)すべきだと思う裁判官に×印をつけて投票する。×が有効票の半数を超えると罷免となるが、過去に例はない。審査は、任命後の初めての衆院選と、その後10年を経過するごとの衆院選時に受ける。昨年10月の審査で×印の割合が最も高かった人は7・82%だった。

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    能條桃子
    (NOYOUTHNOJAPAN代表)
    2022年5月26日11時2分 投稿
    【視点】

    ネット投票が導入されたら、コストや時間も解決することがあると思うので、現在ある技術で実施可能なことは前向きに検討されたら良いなと思います。

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    駒木明義
    (朝日新聞論説委員=ロシア、国際関係)
    2022年5月25日17時39分 投稿
    【視点】

    在外勤務の際に国民審査の投票ができないことに悔しい思いをしてきた身としては、当然な判決だと思います。政府がこれまで頑なに実現しなかったことは、まったく理解に苦しみます。 在外投票には、これ以外にも多くの問題が残されています。例えば投票期間

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