「搾取が常識だった」 日本側に賄賂、つけは実習生に

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平山亜理
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 ベトナム人技能実習生が失踪する大きな要因が、来日時に抱える多額の借金だ。送り出し機関やブローカーなどに計100万円近く払う人が多く、大半の人は借金でまかなう。ベトナムの給与水準から考えると、日本の感覚では1千万円以上に近いという。

 だから、不当な待遇を受けても、簡単に帰国するわけにはいかない。借金だけが残るからだ。とにかく働いて借金を返し、自分や家族のために貯金ができるまでは――。そうやって働き続けた先に、新たな悲劇が起きることもある。

 出稼ぎが多い中北部ハティン省で漁師の家に生まれたグエン・ドゥック・フーさん(36)は2016年、借金をして送り出し機関などに約110万円を支払い、来日した。シンガポールへの出稼ぎがうまくいかず、直前に帰国した兄の分と合わせ、借金は計約250万円に膨らんだ。

 ハティン省の平均月収は約1万3千円。100万円の借金は月収の80倍近くになる計算だ。それでも日本を目指す人が後を絶たないのは、技能実習の3年間で借金を返済し、さらに100万から200万円稼げた人もいるからだ。成功して家を建てたり商売を始めたりする人を見て、人々は後に続こうとする。

 フーさんの実習先は名古屋市の建設現場で、足場を組む仕事だった。月給14万円と聞いていたが、1日14時間働いてもらえたのは約6万4千円。「このままでは借金が返せない」と焦り、3カ月で逃げ出した。

 ホテルの客室清掃、農家、梱包(こんぽう)などの仕事の転々としながら3年ほど働いたが、19年3月、千葉県のアパートで風呂に入ろうとした時、脳梗塞(こうそく)で倒れた。一緒に住んでいた失踪仲間がタクシーで病院に運び手術したが、半身不随になった。保険はなく、治療費は約880万円に上った。募金で集まった48万円を支払うのが精いっぱいだった。その年の6月に帰国した。

来日時に、借金するほどの多額の費用がかかるのはなぜなのか。技能実習生を送り出す構図の問題点について、記事の後半で迫ります。

 ベトナムで一緒に暮らす兄は…

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