住居確保給付金、今すぐ確認を 家賃払えぬ人の対象拡大

江口悟
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 新型コロナウイルスのために収入が減り、自宅の家賃が払えない――。そんな人は今すぐ、「住居確保給付金」の要件を満たすか確認すべきだ。この制度、自治体が原則3カ月(最長9カ月)分の家賃を家主に支払ってくれて、返済の必要もないというもの。従来は失業者向けの制度だったが、休業やイベント中止の広がりを受けて厚生労働省が対象を拡大。20日からは、仕事に就いたままでも受給できるようになった。

 3月までは「65歳未満で、離職・廃業から2年以内」であることが必須条件だったが、働く高齢者が増えているため、まず4月1日に年齢制限を撤廃。さらに20日から、「やむを得ない休業などで収入が減り、離職や廃業には至っていないが、同程度の状況にある人」も加えられた。

 この対象拡大の意義は大きい。従来は、失業してハローワークに登録し、求職活動を続けていることを厳格に問う仕組みだったが、今回の見直しでその縛りが緩められた。勤め先がやむなく休業に至った従業員や、勤務日数が減った派遣社員、受注が減ったフリーランスの人らも利用でき、一定期間、家賃の心配をせずに仕事への復帰を待てるようになった。

 受給にはこのほか、収入や資産が地域ごとの基準額をいずれも下回ることや、世帯の生計を主として維持していたことなどの条件を満たす必要がある。たとえば東京都の主な市区では、月収の基準額が単身世帯13万7700円、2人世帯19万4千円、3人世帯24万1800円(それぞれ家賃が支給上限額以上の場合)。資産の基準額が単身世帯50万4千円、2人世帯78万円、3人世帯100万円などとなっている。

 支給額には上限があり、東京都の主な市区の場合、単身世帯5万3700円、2人世帯6万4千円、3~5人世帯6万9800円。居住地域の生活保護の住宅扶助特別基準額が適用される。支給期間は原則3カ月間だが、状況に応じて3カ月の延長が2回まで認められ、最長9カ月間受給できる可能性がある。

 相談・申請は、全国の自治体の自立相談支援機関(福祉事務所など)が窓口となる。厚労省は、新型コロナの感染拡大を受けて、比較的早いタイミングで関連規則を改定。これから審議される補正予算案に27億円を計上した。

課題は「求職活動の条件」

 この住居確保給付金は、2008年秋のリーマン・ショック後の経済危機派遣切りに遭った人らが集まった「年越し派遣村」の経験を経て、困窮者への住宅支援を求める声が高まり、09年に前身の事業が始まった。15年度から生活困窮者自立支援法に基づく恒久制度になったが、利用は18年度で約4千件と、想定よりも伸びていなかった。

 困窮者支援に取り組む「つくろい東京ファンド」の代表理事で、立教大学大学院客員教授の稲葉剛さんは、「離職者以外に公費による家賃負担の門戸を開いた意義は大きい」と評価する。「これまで離職・廃業を条件とし続けてきた結果、利用件数が減っていた」という。

 稲葉さんは、「コロナの問題が起こるまでは人手不足もあって、仕事自体がないわけではなかった。低賃金の非正規雇用で働くワーキングプアの人が行き詰まって家賃を払えなくなっても対象にならず、こうした人たちがネットカフェで暮らすようになっていた」と話す。

 一方、感染拡大でまず影響を受けたのはフリーランスや自営業の人たちだったが、従来の仕組みでは、こうした事業主も廃業を明確にしなければ受給対象にならなかった。このため、民間の支援団体などから、制度の早急な改善を求める声が上がっていた。

 稲葉さんは残る課題として、ハローワークに登録して求職活動をすることが条件となっている点を指摘。「現状では、例えばフリーで活動するプロの声楽家らに対しても、ハローワークへの登録を求める運用になっている」という。

 日本の困窮者支援政策の問題点は、住居の確保に対する公的な支援が薄いことにあるとして、稲葉さんはこれまでも政府に改善を求めてきた。「今回の見直しでも、まだ常用雇用への再就職支援という色彩が濃い。これだと暗に今の仕事を否定し、辞めるように言っているのと同じだ。家賃の支払いに困っている人に、純粋に住居の支援をする取り組みになるよう、事業の性格をもう一回見直す必要がある」と話している。(江口悟)

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