みんなの財布、握る責任
6月の東京・国立市議会で、税の無駄づかいをめぐる議論があった。
議員 「今回の再稼働に際して多大の税金が投入された。これは市民の血税の浪費だったと私は認識しているが、市長もそれでよろしいか」
佐藤一夫市長 「そのようなことかなあという認識はしております」
「再稼働」とは、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)への接続再開を指す。なぜ「浪費」なのか。
国立市は福島県矢祭町と並んで住基ネットからの離脱を続けてきた。2002年、当時の上原公子市長は、市民の個人情報保護に責任が持てないとの理由で切断に踏み切る。翌年、離脱継続を公約に掲げて再選を果たし、07年に後をついだ前市長も選挙公約に基づいて継続した。
ところが11年の市長選では「即時接続」を訴えた佐藤氏が前市長を破り、今年2月、再稼働。その作業に、業者への委託料や人件費など3400万円余がかかった。
これは上原氏らが離脱していなければ必要なかったお金ではないか、というのが今回の議論だ。この費用を上原氏らに請求すべきだとの主張も、市議の中にはある。
民主的に選ばれた政治家がみずからの政策を遂行する。当然、税金の出し入れの問題をともなうが、当否や責任については次の選挙で審判を受ける。民主主義のサイクルである。では、政治家個人の責任をそれ以上どこまで追及できるのか。そんな問いをこの議論は投げかける。
上原元市長は別の件でも税金を市に返せと訴えられている。
市長時代、景観保護のため、建物の高さを制限する条例をつくった。これに対し高層マンションの建築主が条例は無効だとして、4億円の損害賠償を求めて訴えた。東京高裁は無効確認は退けたものの、「市の営業妨害」もあったとして2500万円の賠償などを命じ、市が払った。
ところがその後、賠償金は市ではなく、上原氏個人が支払うべきだとの訴訟が起こされ、東京地裁はこれを認めた。佐藤市政に代わってから、市はこの判決を受け入れたため、いま、支払いを拒む上原氏と市との間で係争が続いている。
首長の政策、とりわけ税金の使い方が厳しく監視されるべきなのは当然のことだ。住民が法的手続きでチェックする例も少なくない。ただ、不正腐敗の類いは別にして、政策遂行の結果についての責任をどこまで個人に負わせるのかがここでも問われる。
上原氏は語る。「後から裁判で責任を取れといわれるなら、政策について『チェンジ』を唱える政治家はいなくなる。政治は『継続性』だけでいいというなら、政治家を選挙で選ぶ必要もなくなる」(根本清樹)