身を粉にして働き、巨万の資産を築いた。気がつけば還暦を過ぎた。気になるのは相続だ。そこで考えた。米国生まれの親族に米国籍を取らせ、資産を株や証券などで贈与すれば、無税の可能性が高い……。
「でも、僕には米国生まれの直系の親族がいるんだ」。社長が切り出した。その気になりさえすれば節税も可能だという。
この親族は日米二重国籍を持つ。日本の国籍法では、20歳から22歳までにどちらかを選ぶ。米国籍を選ばせ、自分の現預金などを米国に移したうえで、米国の株や有価証券など「無形資産」のかたちで与えれば、日米ともに贈与税はかからない可能性が高い。海外事業に携わるなかで知った。
社員数人で始めた会社は業界最大手に育ち、海外拠点も持つ。市場はグローバル化したのに、税制は国ごとにばらばらだと実感する。「いろんな抜け穴がある。相続税を厳しくすれば、金は税のない国に逃げる。当たり前の経済行為でしょう」
これは法の抜け穴ではないのか。だが国際税務に詳しい古橋隆之税理士は「米国には、非居住外国人による資産贈与に課税するなんてやりすぎだとの考えがある。親族が米国で自立しているなどの条件を満たせば、贈与税はかからないだろう」と話す。
(文・橋田正城 イラスト・原有希)