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カオスの深淵 立ちすくむ税金

立ちすくむ税金
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立ちすくむ税金
貧しさ行きの減税レース

 税金を「おまけ」して世界の資本を呼び込もうとしたけれど、思ったようにいかない。「アフリカの優等生」が悩んでいる。

 80万人以上が犠牲になった大虐殺を経験したアフリカ中部のルワンダ。四国の1.4倍ほどの内陸国は2005年以降、平均8%近い経済成長を実現し、いまや「アフリカの奇跡」と呼ばれる。
 原動力は外国からの投資だ。ルワンダでは大型の投資に対し、法人税などが減免される。期間は投資額などに応じて決まる。優遇措置が功を奏して、12年の投資額は06年の3倍以上に伸びる見通しだ。
 ところが、このところ風向きが変わってきた。税金の減免期間が終わる前に事業をたたんで撤退する企業が目立つ。ルワンダ開発局の投資促進責任者を務めるジョセフ・ムプンガさんは「投資家は開口一番、税金の優遇を聞いてくる。国にはお金を払いたくないようだ」と話す。
 投資も減速し、11年の実績は09年の半分強に減った。世界経済の低迷に加え、関税同盟を組む周辺諸国が同様の税の優遇を進め、東アフリカへ進出する企業の奪い合いになったのが響いた。
 「底辺への競走」。南アフリカ拠点の国際NGO「アクションエイド」は、行き過ぎた税金の減免によって、国の発展に使われるべきお金が失われていると指摘する。
 ルワンダのシンクタンクの調査では、国庫に入るはずの税収の3割が失われ、その額は国内歳入の4分の1に達するという。「ただ企業を誘致するだけでなく、税収を含めどれだけのメリットが得られるかを明確にするべきだ」と担当したディクソン・マルンダさんは指摘する。
 政府は次の予算で、優遇措置の適用範囲を厳しくする方針だ。観光や建設など進出が進んだ分野を外したり、対象の投資額を引き上げたりといった検討をしている。約870万ドル(約7億円)の税収増になるという。カンペータ・サインゾガ財務次官は「税の優遇は、国にとって良くも悪くもなるとわかってきた」と話す。
 とはいえ「底辺への競走」からの離脱は、投資の減少を招きかねない。ルワンダは治安の良さや汚職の少なさ、ネットで6時間以内に会社登記ができるビジネス環境などで、周辺諸国の先を行く。「強みに磨きをかけることに税を使いたい」(開発局のムプンガさん)。当てにならないマネー相手の試行が続く。(中村真理)

(文・中村真理 イラスト・原有希)

[ルワンダの虐殺]

〈ルワンダの虐殺〉
 ベルギーから独立後、少数派のツチ族と多数派のフツ族間で対立が続いてきたが、1994年4月にフツ族のハビャリマナ大統領の搭乗機が撃墜されたのを機に、政府軍やフツ族強行派の民兵が、ツチ族やフツ族穏健派住民の大虐殺(ジェノサイド)を起こした。ツチ族の反政府勢力ルワンダ愛国戦線が全土を制圧するまでの約100日間で、80万〜100万人が死亡したとされる。

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