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カオスの深淵 立ちすくむ税金

立ちすくむ税金
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立ちすくむ税金

(左から1枚目)キガリ中心部では、オフィスビルやホテルが次々に建設されている
(左から2枚目)ルワンダ政府が企業誘致のために用意したキガリ郊外の特別経済区。区画はほぼ完売したが、多くは建設すら始まっていない。現在整備が進む手前の第2地区から、向こう側の第1地区にかけて、空き地が広がる
(左から3枚目)首都キガリの中心部に建つシティー・タワー。18階建てで、ルワンダでは最も高い=いずれも中村真理撮影

取れる所を狙い撃ち

 所得税の税率を引き下げて、一律にしてしまった国がある。ハンガリーは昨年1月、それまで32%と17%の2段階だった個人所得税率を16%の一本にした。
 理由は、横行する所得隠しだ。「従業員がペーパーカンパニーをつくって、税逃れをしている」(地元エコノミスト)などといった指摘がたえない。税率が低ければ、違法スレスレの行為をしてまで収入を隠す人が減るだろう、というのが狙いだった。スロバキアやルーマニアなどが導入したのにならった。
 所得隠しが問題なら、徴税を強化するのがスジだ。しかし、経済省のアダム・バログ次官は言う。「徴税を強化するだけでは、集まる税より、お金がかかってしまうかもしれない。なにしろ、100万人のハンガリー人が、なにがしかの税逃れを日常的にしているのだから……。必要なのは、人々に受け入れられる税制だ」
 所得税改革の結果は税収減だった。すべての所得層がなにがしかの減税になり、「所得税が半分近くになった」(コンサルタント会社経営者)という人もいる。その穴を埋めるため、新たな税源探しが始まった。
 ポテトチップスやチョコレート、清涼飲料水など、塩分や糖分の取りすぎにつながるお菓子にかける通称「ポテトチップス税」はその一つだ。打撃を受けた菓子メーカー、チヨは、予定していた製造ラインの建設をやめ、300人余りの従業員のうち15人を解雇した。渉外・市場調査担当のガーボル・サボー氏は言う。「政府は健康のためというが、実際は違う。財政赤字を減らしたいため。でも、それで企業が活動できなくなれば、法人税も減るのに」
 これまでにチップス税のほか、ポルノ雑誌や暴力ビデオにかかる通称「ポルノ税」も導入されている。7月からは電話で話すと税金がかかる通話税が始まり、お金のやりとりにかかる金融取引税も来年導入される見通しだ。「そのうち、歩道を歩くのにも税金を払うことになるのでは」「空気を吸うのにも課税されるかも」。ブダペスト市民の間では、そんな冗談が飛び交う。本当は一番取りやすいのは付加価値税(消費税)だが、すでに税率は27%でこれ以上は難しい。
 苦し紛れのつぎはぎ税制のようだが、よく見ると標的には傾向がある。会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)ハンガリーの共同代表で税制に詳しいタマーシュ・レチェイ氏によると、狙われたのは主にサービス業などものづくり以外の分野だ。「製造業は大事にされている。輸出で稼ぎ、多くの雇用を支えているためだ。ここに税金をかけたら、ものすごくたくさんの人を敵に回す。政治家たちはそう考えたのだろう」(有田哲文)


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