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カオスの深淵 立ちすくむ税金

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立ちすくむ税金

網から漏れる海外配信・個人売買

 消費税の「おまけ」は、ネットの世界ではすでに広がっている。
 「消費税をいただく筋道がたたない。法律上義務がないものを徴収するのは問題がある」
 2日、東京・六本木であったインターネット通信販売大手、楽天の電子書籍事業の発表会。三木谷浩史会長兼社長は「消費税」という言葉に敏感だった。
 楽天はこの日、電子書籍ビジネスへの本格参入を発表した。ポイントは、1月に買収したカナダのコボ社を通じてネット配信する点だ。
 ネットを通じた購入では、消費税がかからないことがある。海外の企業が現地から配信すれば、国外取引とみなされるためだ。
 実際、ネット通販大手の米アマゾンは、ダウンロード販売する楽曲やソフトに消費税を上乗せしていない。楽天はライバルのアマゾンと同じ土俵で勝負するためにも、海外子会社を活用したとみられるが、三木谷社長の発言には税逃れと思われることへの警戒感もにじむ。
 財務省は国内企業が不利になるのを防ぐため、海外企業にも課税できる法整備をこれから進める考えだ。電子取引に詳しい村瀬拓男弁護士は「企業が消費税を避けようとするのは当然だ。問題は税が逃げているのに対応が遅れた政治や行政にある」と指摘する。
 欧州連合(EU)は2003年、電子取引に課税する制度を取り入れた。域外のネット企業はEUのどこかの国に登録し、そこで消費税をまとめて払って加盟国に分配してもらう仕組みだ。
 ネット社会では、税をかけるのはますます難しくなる。広く薄く課税するはずの消費税も例外ではない。例えば個人売買。消費税は基本的にかからないこの取引が、ヤフーオークションなどを通じて、急速に普及する。
 さらに「無料であげる」ことさえも、ネット上では簡単にできる。ベンチャー企業のジモティー(本社・東京)が昨年11月に始めた情報掲載サービスでは、サイトにソファやテレビ、冷蔵庫など様々な商品が並ぶ。特徴は「ゼロ円」が多いこと。無料の品は1千件超あり、個人出品の3割近くを占める。引っ越しなどで不要になった家具や家電を「タダでもあげたい」という人が目立つ。
 ネット社会に詳しい大阪芸術大学客員教授の岡田斗司夫さんは「ネットを通じた個人取引すべての把握はできない。この動きが広がれば、税収は減る」と語る。(多田敏男)

[電子書籍] [岡田斗司夫さんインタビュー]

〈電子書籍〉
 小説や漫画などを電子データとして読めるようにしたもの。インターネット上の「書店」から、パソコンやスマートフォン、専用端末などにダウンロードする。印刷や流通コストを抑えられるため、紙の本よりも2割前後安いものが多い。国内ではソニーのリーダーストアなど、5万点を超す本が購入可能なネット書店が複数ある。

〈岡田斗司夫さんインタビュー〉
 ――インターネットの個人取引は課税しにくいといわれます。税金をとる機能が弱まっているのでしょうか。
 「これから先、お金を介さない取引がどんどん増える。ネットを通じて物々交換すれば税金はとりにくい。自分が欲しいものや、他人にあげられるもののリストをネットに出して、貸し借りの関係として記録に残す。肩たたき券みたいなものです。消費税を上げれば上げるほど、物々交換は盛んになる。見かけ上の経済は縮小するかもしれないが、政府が把握できない地下経済は拡大する」
 ――知らない人と取引することには抵抗感もあります。
 「ネット社会では、個人の情報が集まっている。誰かをだまして発覚すれば、まわりの友達を失ってしまう。ネットでは、だましてもうけたい人よりも、自分が一生つきあえるような人と知り合ってネットワークを広げたい人が多い。得られる物はお金じゃなくて、つながり。お金さえ持っていれば安心という社会から、つながりを持っていれば安心という社会になる。本当に信頼できる人との、リアルな関係をもてるかどうか。それが多い人と少ない人の『つながり格差』が生まれるかもしれない」(大阪芸術大学客員教授)

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