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カオスの深淵 立ちすくむ税金

立ちすくむ税金
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立ちすくむ税金
「もっと私に課税してくれ」

 私たちからもっと税金を集めるべきだ。そう訴えるお金持ちが米国にいる。
 ニューヨークで書籍編集の仕事をするソフィー・ハーゲンさん(24)もその一人。全米の裕福な家庭に育った18〜35歳の人でつくる「リソース・ジェネレーション」のメンバーだ。富裕層への課税強化の考えを広げるため、ワークショップなどを開く。ウォール街占拠運動にも参加した。
 父は作家、母は大手企業の顧問弁護士。ニューヨークの高級住宅街にある3階建ての家で育った。
 お金持ちだと意識したのは高校生の時だ。メディアが、当時のブッシュ政権による富裕層への減税を報じていた。所得上位1%の人の投資を促せば景気はよくなるという。「こんなの不公平」。母に同意を求めると、こう言われた。「うちも1%よ」
 富裕層は富の独占に無自覚な人が少なくないと感じる。「恵まれて育ったのだから、税金で社会に貢献するのは当然です」


 ビジネスの観点から富裕層への課税強化を主張するのがシアトルの起業家ニック・ハナウアーさん(53)だ。父親が興した寝具会社を継ぎ、いまは20を超える企業を経営する大富豪。ネット通販大手アマゾンに最初に目をつけて投資した人物で知られる。
 「富裕層減税がビジネスを生んで雇用を増やすなんて話はでたらめだ」。ハナウアーさんは言う。企業家は簡単には人を雇わない。大きな需要が見込める時、初めて増やす。大きな需要をつくるのは、分厚い中間層だ。「だから金持ちから税金を集め、中間層を育てた方が、経済は活性化する」
 富裕層課税は社会を守るコストだと言う。「このまま格差が広がると、30年後は停滞した中世のようになる。それは米国ではないし、子どもに引き継ぎたくない」


 支持する富裕層は少数派だ。ハナウアーさんが講演で話すと、反論が続出した。
 「金持ちのパフォーマンスだ」。ケイトー研究所のダニエル・ミッチェル研究員は批判する。「税が少ないほど経済は成長する」。安い法人税で企業誘致に成功したシンガポールや香港が好例だという。
 かつて税金は国内で回った。いまは税になる前にお金が国境を越えて逃げ始めている。グローバル化する市場で、私たちは税をコントロールできるのか。ハナウアーさんとミッチェル研究員の意見のちがいは、そんな問いかけのように見える。

(文・高久潤、イラスト・原有希)

[ウォール街占拠運動]

〈ウォール街占拠運動〉
 米国を代表する金融大手が集中するニューヨークで2011年9月17日に始まった草の根デモ。参加者はウォール街付近の公園にテントを張って寝泊まりした。経済格差解消が主な訴えだが、参加者の要求は多様。統一組織や運動綱領などはまったくなく、ネット上の交流サイトを通じて米国の主要都市のほか他国へも波及した。

 ソフィー・ハーゲンさん。「税金で社会に貢献するのは当然」と話す=ニューヨーク、高久潤撮影

 ニック・ハナウアーさん。富裕層に増税すべきだと主張する=ニューヨーク、高久潤撮影

 ケイトー研究所のダニエル・ミッチェル研究員。「税は安いほどいい」と言う=ワシントン、高久潤撮影

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