(左から1番目)ティンプー市の郊外では、かつて田畑だったところで続々とマンションの建設が進む。作業をしていたのはインドのベンガル地方から来た出稼ぎ労働者だった
(左から2番目)2月に開店したティンプー市内のスーパーマーケット。インドやタイから輸入された食料品や雑貨が並ぶ。韓国の自動車メーカーの販売店も併設。上階にはカフェもあった
(左から3番目)ティンプー市内の週末市場。野菜をてんびんで量り売りしていた。特産のジャガイモは1キロが25ヌルタム(約38円)。自給率が低いため、インドからの輸入野菜も目立つ。外貨不足で値上がりしている
(左から4番目)ブムタン県の農家に帰省し、母親の手作り料理を食べるリンチェンさん(左)。手前左の金属容器に入っているのが、この地方の名物「ソバ粉パスタ」。息子はジーンズをはき、母親は伝統衣装を着ている=西本秀撮影
格差 都市と農村で最大5倍
首都ティンプーから直線距離で東へ100キロのブムタン県。3千メートルを超す三つの峠を四輪駆動車で越え、2日間かけてたどり着いた山村が、リンチェンさん(21)の故郷だ。ティンプーで職を探しており、半年ぶりの里帰りという。
斜面に寄り添って23世帯が暮らす。電気が来たのは2008年。車を持つ家はない。消費に沸く都市がある一方、人口の半数以上はこうした地方で暮らす。
実家はジャガイモやソバを育て、細々と暮らすが、所得税を納める収入はない。ブータンが通貨ヌルタムを発行し、貨幣経済が本格化したのは1974年。それまで税は物納や労役の形だった。祖父のドルジさん(79)は「役所の屋根のふき替えや道路の修繕にかり出されたよ」と振り返る。
「農業より、公務員や会社員がいい」。多くの若者がリンチェンさんのように都市へ流れ込む。だが、全体の失業率が3%なのに対し若者は9%。リンチェンさんも電話会社などを受けたが仕事に就けない。
担い手が去った農村は空洞化し、主食のコメの自給率は50%にとどまる。豊かさを追った先に、新たなひずみが芽ばえる。
あなたは幸せですか? 05年の国勢調査で、97%が「はい」と答えたのが、ブータンが「幸せの国」と呼ばれるゆえんだ。だが、質問や手法が異なる10年の調査では、経済状況や健康などの点から「幸福」と判断されたのは41%にとどまる。
調査では、首都圏と地方の収入格差が最大5倍に達した。職業別の幸福度は、1位が公務員、人口が多数の農民は下から2番目の11位だった。政府のGNH委員会のカルマ長官は「いまは貧困と格差の二正面で戦う局面なんだ」と語る。
7%前後の経済成長で絶対的な貧困は減った。だが、成長は相対的な格差を広げ、新たな問題を生んでいる。「今後は税制が重要だ」とカルマ長官。政府は累進課税の強化など、格差是正策を検討している。
ヒマラヤ山脈の南側、インドと中国との間に位置する。国名は現地語では「雷竜の国」の意味。人口は70万8千人で、島根県とほぼ同じ。面積は3万8千平方キロで九州より少し小さい。
南部の標高300メートルから、北部の7千メートルまで国土には高低差がある。首都ティンプーは標高2300メートル。日本から訪問する場合、タイのバンコク経由でブータン航空に乗り継ぐ。
1ヌルタムは約1.5円。1974年に発行される前はインドのルピー紙幣が流通していた。物価の目安は、新聞1部5〜10ヌルタム、コーヒー1杯20ヌルタム、ジャガイモ1キロ25ヌルタム、トマト1キロ50ヌルタムといったところ。