(左から1番目)購入した新車の説明を受ける家族連れ。僧侶に相談して引き取りの日を定め、縁起を担いで北側を向きカギを受け取った=ティンプー市内、西本秀撮影
(左から2番目)「車に乗らない日」の初日、自転車でティンプーの街を走るブータン国王(中央)=6月5日、ブータン王室提供
(左から3番目)ブータン国会初日の開会式典。中央奥に国王が座っている。国教であるチベット仏教の僧侶による祈りもあった=6月8日、ブータン王室提供
財政 半分は援助頼み
増税の前にするべきことがある――。
消費税率引き上げをめぐって日本でよく聞いた反対論を、ブータンでも耳にした。
首都ティンプーで農業相談の仕事に就くソナムさん(41)は、自動車関連税を上げるなら、公務員の優遇措置をまず廃止するべきだと感じる。公務員は昇進に応じ、排気量の大きな車が無税で購入できる。「特別扱いするなんておかしい」と憤る。
2008年に国王親政から立憲君主制に移り、総選挙を行って4年。王様任せを脱した納税者意識が国民に育ちつつある。
来年の国会改選に向けて、新たな政党も次々と名乗りをあげている。6月に発足した「平等党」は、議員報酬を1年目は半分しか受け取らず、公務員の給与も見直すのが公約だ。「協力党」は地方と都市の格差是正を訴える。公務員の待遇や税金の配分に敏感な世論へのアピールだ。
とはいえ、この国で実際に所得税を払っている人の割合は、労働人口の1割ほど。残りの人々は、年収が課税最低限の10万ヌルタム(約15万円)に届かない。
ブータンでは「国民総幸福(GNH)」実現のため、教育や医療が無料だ。だが、300億ヌルタム(約450億円)規模の予算のうち税収は約4割。ほぼ同額をインドなど外国からの援助でまかなう。
「幸せ」が援助に支えられている現状から脱するため、政府が期待するのが水力発電だ。数千メートル級の険しい山と谷に隔てられた国土を使い、発電用のダムを造り、慢性的な電力不足に悩むインドに売電する。
すでに大小20基以上の施設ができ、150万キロワットを発電。20年までに1千万キロワット分の整備を目指す。この年に援助を卒業し、自立することが国家の長期目標だ。
ただ、せっかくの設備投資が、国内の産業育成や雇用に生かされていないのが課題だ。高学歴化するブータンの若者は肉体労働を敬遠するため、建設工事に携わる労働者の大半はインド人の出稼ぎ労働者が占める。ブータン労働省によると、人口70万人のこの国で7万人のインド人が働き、年間70億インドルピー(約105億円)の給与がインド側に流れ、税金を取り損ねている。
ブータンの英語名は「Kingdom of Bhutan」。1907年に現王朝の初代国王が統一した。国王親政だったが、2008年に憲法が制定され、立憲君主制に移行した。国王は元首で、ユニークな65歳定年制をとる。現在のジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王は5代目で、06年12月に即位。昨年、一般家庭出身のペマ王妃と結婚し、夫妻で来日して、震災の被災地などを訪れた。
1ヌルタムは約1.5円。1974年に発行される前はインドのルピー紙幣が流通していた。物価の目安は、新聞1部5〜10ヌルタム、コーヒー1杯20ヌルタム、ジャガイモ1キロ25ヌルタム、トマト1キロ50ヌルタムといったところ。