(社説)米学生のデモ 命守る訴えに耳傾けよ

 民族の別を問わず命は尊いと訴える若い良心の発露と受け止めたい。中東ガザの惨状に重責を負う米政府は、足元の学生たちの主張に謙虚に耳を傾けるべきである。

 米国の100を超す大学でガザ紛争をめぐる抗議運動が続いている。一部では封鎖された建物に警官隊が突入するなどし、全米で2千数百人の逮捕者が出ている。

 学生らは大学側に対し、イスラエルの軍需に関わる企業への投資の見直しなどを求めている。大学経営を支える基金の運用に矛先を向け、停戦への圧力としたいようだ。

 学外の活動家がデモをあおっていると主張する大学もあるが、基金運営について話し合う姿勢を学生に示して収束した大学も少数ながらある。

 できる限り対立を避け、民主大国の最高学府にふさわしい冷静な対処を望みたい。

 古くから米社会に巣くう問題も顕在化した。人種間の緊張だ。トランプ現象やコロナ禍に伴う白人至上主義やアジア人蔑視の広がりに加え、ユダヤ人への差別も近年、悪化したとされる。

 学生たちの主張や行動を反ユダヤ主義ととらえて反発したり、あるいは傷ついたりするユダヤ人も少なくない。親パレスチナと親イスラエルのデモ隊の衝突も起きており、憎悪の増幅が憂慮される。

 そうした社会の融和を促すべき政治が、党派争いに終始している。連邦議会は最近、学長たちを公聴会に呼び、反イスラエルの言動が広がっているのではないかとして学内管理に注文をつけた。11月の選挙をにらんだ動きとみられるが、学内の言論への無用な政治介入は慎むべきだ。

 米現代史を顧みれば、学生の運動はしばしば内外の世論に影響を与えてきた。ベトナム戦争や南アフリカの人種隔離への抗議など情勢転換につながった例も少なくない。

 米国は長らく国際的に孤立してでもイスラエル支援に固執してきたが、国際秩序が揺らぐ今、自ら唱える「法の支配」を公平に世界に適用する外交に転じるべきだ。特定層の利害に偏することなく、中東和平の実現へ公正な仲介役を果たすよう強く願う。

 バイデン大統領は学生の運動に対し「抗議する権利はあるが、混乱を起こす権利はない」と突き放す演説をした。

 イスラム組織ハマスの残虐なテロが発端とはいえ、これほど多くが死傷した責任は、イスラエルの過剰な攻撃を止められぬ大統領自身も背負うことを自覚すべきだ。ガザの一刻も早い停戦を求める学生らの叫びは、日本を含む国際世論の切なる要求でもある…

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