(社説)首相とLGBT 差別解消 行動で示せ

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 政権の人権意識が厳しく問われている時に、「多様性を認め合う包摂的な社会をめざす」と従来の主張を繰り返すだけでは、本気で差別解消に取り組む意志があるのか、疑われても仕方あるまい。具体的な行動を伴わねば、信頼は回復できないと、岸田首相は心すべきだ。

 首相がきのう、衆院予算委員会の集中審議に出席し、秘書官の性的少数者同性婚をめぐる差別発言について、「政権の方針と全く相いれない」として陳謝した。一方で、同性婚を認めれば「社会が変わってしまう」という自身の答弁は、すべての国民にかかわる問題なので、慎重な検討が必要だという趣旨であり、「ネガティブな発言」ではないと釈明した。

 ただ、多くの人が、首相は後ろ向きと受け止めたのも無理はない。首相は、性的少数者らを差別する言動を繰り返していた杉田水脈(みお)衆院議員を総務省政務官に起用し、批判を受けても、かばい続けたのだから。

 首相が3年前、最初に自民党総裁選に挑んだ際に出版した「岸田ビジョン」には、LGBTも含め、多様な「個」に社会の中の居場所や役割があるとの記述がある。きのう、これを引用した自民党議員に対し、首相はニューヨークに住んだ小学生時代にマイノリティーだった経験が土台にあると語った。

 ならば、掛け声だけでなく、制度や法整備に具体的に取り組むべきである。まず試金石となるのが、秘書官の更迭を機に、与野党の間で再浮上した「LGBT理解増進法案」の扱いだ。

 2年前に超党派の議員連盟がまとめた際は、自民党内の一部に強い異論があり、国会提出には至らなかった。今回、自民党の茂木敏充幹事長が「提出に向けた準備」を表明。主要7カ国(G7)の中で、同性婚や同性間のパートナーシップ制度が国レベルでないのは日本だけであることから、5月に広島で開かれるG7サミットまでの成立を求める意見が、公明党や野党からあがっている。

 昨年のドイツでのサミットでは、性自認や性的指向に関係なく、誰もが差別から保護されることへの「完全なコミットメント」を明記した声明が採択されている。しかし、今年の議長として法整備への決意を問われた首相は、議員立法であることを理由に、党の動きを「見守る」と繰り返した。

 この法案は当時、自民党の賛同を得ようと、差別禁止には踏み込まず、理解増進のための施策の推進にとどめた経緯がある。この機会に改めて、差別解消規定を正面から議論する必要がある。党総裁として、首相が指導力を発揮すべき局面だ。

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