(社説)ミャンマー 暫定政府はまやかしだ

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 力ずくで権力を握ったものが政府を名乗る。本来の選挙で勝った政党は解体させて、やり直し選挙をする。そんな「民政移管」は、まやかしだ。

 ミャンマーで2月にクーデターを起こした国軍が今月、暫定政府を発足させた。ミンアウンフライン国軍最高司令官が首相に就き、再来年の8月までに総選挙を行うという。

 国軍はかねて自らの正当性を主張しており、民主体制への移行を示すことで国際社会の非難を和らげたい思惑のようだ。

 だがそんな行程を国軍が決めること自体、理不尽だ。昨年11月の総選挙が示した民意を踏みにじった事実は動かない。

 国軍の影響下にある選管は先週、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟が総選挙で大勝した結果を無効だと宣言した。不正に関与したとして、解党に踏み切るとみられている。

 国家顧問として民主政府のトップを務めていたスーチー氏らは拘束され、裁判にかけられている。次の選挙で国軍の息のかかった政党を勝たせる筋書きであることは明らかだ。

 人権団体によると、この半年間で国軍に殺害された市民は、940人にのぼる。

 今週、ミャンマーも加盟する東南アジア諸国連合は一連の外相会議を開くが、オンライン参加する日本をはじめ各国は改めて、国軍に暴力と不当な支配を停止するよう強い圧力をかけなくてはならない。

 ミャンマー社会は、クーデターによる経済の停滞にコロナ禍が加わり混乱を極める。

 卵や食用油などの必需品は高騰するが、銀行で引き出せる現金は制限されている。コロナの感染者は7月から急増し、連日5千人を超す。死者数は9千人に達し、酸素ボンベが足らず、医療は壊滅的な状況だ。

 背景にはクーデターに抗議して公務員や医療従事者らが職場を放棄する不服従運動の広がりがある。多くの市民は、自分の生活に支障があっても、この運動を支持している。

 世界銀行の推計では昨年10月から1年間のGDPは、前年比で2割近く減る見通しだ。100万人が失職し、貧困層が倍増する恐れもある。

 民主化にかじを切ったこの10年でミャンマーには外国の投資が流れ込み、高い成長率を遂げていた。その成果を壊し、国民を失望の淵に追いやった国軍に、国家運営を語る資格はないことを自覚すべきだ。

 日本政府は、市民生活への影響も配慮しつつ、ODAの全面停止など制裁の強化を模索するべきだ。進出する民間企業も、事業が国軍の収益源になっていないか、精査が求められる。

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