戦後秩序を壊すトランプ関税と日本がすべきこと 論説主幹・佐藤武嗣
「米国は世界経済の牽引(けんいん)役を担い、信頼と相互尊重に根ざした同盟関係を築き、自由で開かれた貿易を推進してきた。そんな(戦後の)80年間の時代は終わった。これは悲劇だが、新たな現実でもある」。米国の同盟国・カナダのカーニー首相がトランプ関税を批判した言葉が、その衝撃の大きさを物語っている。
世界は、関税競争や経済のブロック化が第2次世界大戦の引き金を引いたとの反省から、貿易自由化にかじを切り、ブレトンウッズ体制や世界貿易機関(WTO)の仕組みを育んできた。その流れを主導した米国がいま、秩序の破壊に猛進する姿に、失望と危機感を抱く。
関税を振り回すトランプ氏をめぐり楽観論もあった。あくまで外交交渉を有利にするツールであって、市場が拒否反応を示せば、自制するだろうとの見方だ。しかし、約60の国・地域に対し、根拠の薄い相互関税の発動に踏み切ったことで、この楽観論は吹き飛んだ。
世界相手に貿易戦争を仕掛ける狙いは何か。思い当たるフシがある。
ワシントン特派員だった8年前、トランプ大統領の最初の就任演説で飛び出した「殺戮(さつりく)(carnage)」という耳慣れない言葉にぞっとした。「大虐殺」「死体の山」とも訳される言葉だ。米国が主導した自由貿易や寛容な移民政策により、職を奪われ、工場が閉鎖されて「墓石」化し、不法移民による犯罪と麻薬で米国市民が犠牲になったという文脈だった。
自らの主張を正当化するには、戦後秩序で他国に利用された「報復」としての関税発動が欠かせない。そんな執念を今回は米国の「解放記念日」と呼んで炸裂(さくれつ)させた。「殺戮」を傍観したと米国の過去の指導者をさげすみ、自らの腕力を支持者に誇示したいとの思惑もあるのだろう。
「米国第一」ですらない
ただ、自由貿易は米国に繁栄…
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