(社説)「人新世」 地球の限界を考える
ずっと遠い未来に化石を発掘する生き物がいたら、我々が存在した痕跡を見て何を思い、いかなる評価をするだろうか。
人類が地球に大きな影響を与えた時代を「人新世」と名づけ、地質時代の正式な区分として位置づけることを国際組織が検討している。
「じんしんせい」、あるいは「ひとしんせい」と呼ばれるこの概念が意味するものを理解し、地球との付き合い方を見直す機会としたい。
地球46億年の歴史は地層に残る化石などをもとに区分されている。古生代石炭紀、中生代ジュラ紀などがあり、現在は1万1700年前から続く「新生代第四紀完新世」にある。
人類の活動が地質に刻まれた時代を、この完新世から独立させようというのが人新世だ。
オゾン層破壊を警告したノーベル賞学者が2000年に提唱し、09年には地質時代を承認する国際地質科学連合に作業部会が設けられた。調査を進めて支持が集まれば、24年に予定する連合理事会で正式に決まる。
どこからが人新世なのか。
農耕の始まり、米大陸の「発見」、産業革命なども候補にあがったが、1950年代とする考えが有力とされている。核実験による放射性物質、プラスチック、石炭の燃焼による灰などが地層に残り、地球的規模で変化が起きた節目として区別しやすいからだという。
私たちが生きる時代が、地球史の節目になる重大な話だ。
いま地球では、過去5回あった恐竜などの大量絶滅期をしのぐ勢いで生物が死に絶え、その現象も地層に刻まれつつある。プラスチックに象徴される便利な生活は、人類発展の証しであると同時に、戦争、開発、浪費で地球を汚染し、生態系を壊してきた負の証しでもある。
先進国が謳歌(おうか)しているのと同等のくらしを、全人類がするだけの資源は地球にはない。日本も温室効果ガス削減の新目標を打ち出して具体策を検討中だが、気候変動はもはや元に戻れないレベルにまで進んでいるとの指摘も聞かれる。環境の激変は食料不足を生み、新たな紛争を引き起こす恐れもある。
「人新世」は地質学の用語にとどまらず、環境や持続可能な社会、未来への責任について考えるキーワードとしても広がり、関連書籍の出版も相次ぐ。
破壊のスピードを抑え、破局を遅らせるために何をすべきか。回避する手段はあるのか。昨年来のコロナ禍がもたらした行動・思考様式の変化の中にも、ヒントがひそむ。
この夏。「人新世」を手がかりに、地球的視点で私たちの生き方を考えてみよう。
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