(社説)入管法改正案 国際標準から遠いまま

社説

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 法案をこのまま成立させれば国際社会からさらなる批判が寄せられるのは必至だ。抜本的な修正が必要だ。

 外国人の収容や送還のルールを見直す出入国管理法改正案の審議が衆院で始まった。不法滞在で退去強制処分を受けた外国人が出国を拒み、施設で長期間収容される例が多発している。政府はこの問題を解消する改正だというが、「保護が必要な人を適切に保護する」という原則に照らし、疑問が多い。

 たとえば、難民認定申請中は送還しないとする現行法に例外を設け、同じ理由の申請は事実上2回までとする枠をはめた。収容に替えて、親族や支援者ら「監理人」の監督下でくらすことを認める監理措置という新たな仕組みを導入するが、認めるか否かは入管当局次第で、裁判所の審査はない。収容期間の上限も設けられないままだ。

 国連の人権専門家や難民高等弁務官事務所が法案の段階で、「国際的な人権水準に達していない」と日本政府に懸念を伝える異例の事態になっている。

 上川陽子法相は本会議で「収容に不服があれば行政訴訟を起こせる」と答弁し、問題はないとの認識を示した。だが身柄を拘束されながら裁判で争う負担は極めて重い。公正さや透明性を担保するうえで、収容前に司法が審査する意義は大きい。

 実効性にも疑問符がつく。監理措置では就労は認められず、違反したら監理人が当局に通報する義務を負う。外国人支援に取り組む団体や弁護士は、守るべき人を告発するようなことはできないとして、監理人にはなれないと表明している。引き受け手がいなければ、制度をつくっても絵に描いた餅だ。

 法案には、条約上の難民といえなくても、それに準じた保護が必要な人を受け入れる手続きを新設したり、法相の裁量というブラックボックスの中にある「在留特別許可」を申請制とし、考慮しなければならない事項を明示したりするなど、見るべき点もないわけではない。

 だが、入管行政の問題点も踏まえてあるべき姿を探っていこうという野党議員の呼びかけに対し、法相は当局に一切非はないとの立場からの答弁に終始した。こんなかたくなな姿勢で議論が深まるはずがない。

 野党は▽収容の可否を裁判所が判断するようにして、期間の上限も定める▽難民認定部門を入管当局から独立させる――などの対案を提出している。

 外国人を管理・摘発の対象として扱う部門と、保護・支援する部門が、同じ役所の中にある限界はかねて指摘されてきた。組織論にまで踏み込み、国際規範にかなう制度を築くべきだ。

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