(社説)ワクチン詐欺 確実な情報が抑止力だ

社説

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 人々が抱える不安と、その裏返しである期待、そして誰の胸にも宿る小さな欲望につけこむのが詐欺犯の手口だ。

 コロナ禍の収束が見通せないなか、マスク不足や給付金の支給に続いて、新たな狙い目になっているのがワクチン接種だ。「優先的に打てる方法がある」などと持ちかけ、お金や個人情報をだまし取ろうとする電話、メールが最近増えている。警戒を強めたい。

 国民生活センターによると、ワクチン接種詐欺に関する相談はこれまでに約60件寄せられている。センターや消費者庁は今後さらに広がるとみて、専用電話番号(0120・797・188)の周知に努めている。

 「10万円を振り込めば接種できる。後日返金される、と言われた」(80代女性)

 「接種には60万円かかる。断るなら解約料30万円がいる。命と金どちらをとるのか、と迫られた」(30代男性)――

 これまでの相談例の一部だが、どちらもあり得ない話だ。接種は全額公費でまかなわれ、個人の負担はない。住んでいる市区町村から「接種券」が郵送されて初めて、接種の日時や会場を予約できる。家族構成や金融機関の口座番号などを尋ねられることもない。

 他の詐欺被害と同じく、なかでも心配なのはお年寄りだ。スマホやパソコンを使わず、情報を入手する方法が限られる人たちへの目配りを忘れずに、国・自治体はわかりやすく、きめ細かな広報を心がけてほしい。社会の認識が深まることは、接種会場などでのトラブルの回避にもつながる。

 詐欺犯のつけめは、接種の対象者や日程が自治体によって異なることだ。さらに、医療従事者先行といいながら、完了しないうちに高齢者への接種が始まったり、予約がキャンセルされてワクチンが余ったときは、廃棄せずに有効活用するよう担当相が求めたりしている。

 いずれも理由があってのことでやむを得ない面があるが、こうした情報の錯綜(さくそう)はだましの手口に利用されかねない。

 政府によるワクチンの確実な調達と分配。公正・透明な手続き。事情変更があった場合の迅速で丁寧な説明。接種の進み具合や今後の予定の周知――。

 これらを一体で進めることが詐欺被害を抑え込む。ワクチン行政全般に対する不安や不信をぬぐい、疑心暗鬼の状態をつくり出さないことが肝要だ。

 市民一人ひとりの心がけや取り組みも大切だ。行政機関が設ける相談窓口を活用するのはもちろん、気がかりな親族や知人には折にふれ声をかけ、注意を呼びかけるようにしたい。

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