(社説)自殺対策 連携強化し孤立を防ぐ

社説

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 進学、就職、転居などの大きな節目を控え、企業の決算期でもある年度末は、不安や悩みから命を絶つ人が多くなる傾向がある。自殺対策基本法は3月を対策強化月間と定める。

 コロナ禍で社会全体が打撃を受け疲弊しているいま、自殺を防ぐための取り組みはますますその重要度を増している。

 感染が広がった昨年は、第1波が去った夏以降に増加し、10月がピークになるなど例年と違う推移をたどったが、年間で2万1077人(厚生労働省の暫定値)が亡くなり、リーマン・ショック時以来11年ぶりに増加に転じる結果となった。

 女性の自殺者が7025人と前年より15%も増え、小中高生も計498人と、いじめ自殺が社会問題になった1986年を上回り、過去最多だった。

 きわめて深刻な事態だ。

 女性の比率が高い非正規労働者の失業の増加、「巣ごもり」が招く家庭内暴力、長期休校による学習の遅れなど、いわれていた数々の懸念が現実の数字となって表れたといえる。

 原因・動機では「孤独感」が一因とされる人が434人と、前年より30%以上の増となったのが目を引く。外出自粛が求められ、職場、学校、地域など様々な場面で、人と人とのつながりが薄くなった1年だった。

 経済的苦境にある人への財政支援は引き続き重要な政策課題だが、孤独・孤立問題の解決も正面から立ち向かわねばならないテーマだ。与野党の提言もあって、菅首相は担当相の設置を決め、坂本哲志地方創生相が兼務することになった。

 その坂本氏は会見で、孤独を「主観的に感じるもの」と述べたが、単に人の心の内面の問題としてとらえているのであれば考えを改める必要がある。自殺は多くが「追い込まれての死」であり、社会のありよう次第で増えることも減ることもある。正しい認識をもって政策の推進にあたってほしい。

 悩み相談にあたってきたNPOも政治の背中を押す。

 11団体が連携して「#いのちSOS」(0120・061・338)を先月開設。約300人が在宅のまま相談に乗れるシステムを導入し、24時間対応をめざす。若者になじみのあるSNSの活用に軸足をおくNPOもある。自治体とも提携し、必要な支援策につなげていこうという試みに期待したい。

 世界の自殺者は年80万人にのぼり、韓国やフランスは相談員の養成に国として取り組む。世界保健機関は自殺を社会の力で防げる死と位置づけ、さらなる対策の強化を呼びかけている。その一角に日本も加わり、一人でも多くの尊い命を救いたい。

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