(社説)記者殺害報告 サウジの責任は重大だ

社説

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 政府を批判する者を残虐な手口で殺害する。しかも国の指導者が承認していた、との嫌疑である。サウジアラビア政府には重大な説明責任がある。

 サウジ人のジャマル・カショギ記者が2018年、暗殺された事件について、米バイデン政権が情報機関による調査報告書を公表した。

 サウジでは、高齢の国王にかわりムハンマド皇太子が実質的に国政を取り仕切っている。報告書は、カショギ氏を拘束または殺害する作戦を皇太子が承認した、と結論づけている。

 米国で活動していたカショギ氏は、トルコにあるサウジ総領事館を訪ねて以降、消息を絶った。トルコ当局の捜査により、館内で殺され、ばらばらに切断されたことが分かっている。

 事件には、皇太子の顧問や警護役が直接かかわっており、反体制派の口を封じるために暴力的な手段を使うことを皇太子が支持していた――報告書はそう指摘している。

 米情報機関の信頼性を疑う向きもあろう。存在しなかった大量破壊兵器イラク戦争の口実にした例もある。

 だが、今回の報告書は前政権期につくられたものだ。皇太子と蜜月だったトランプ大統領の下で、あえて事実を曲げて指弾するとは考えにくい。

 サウジ政府は「受け入れがたい」と反発しているが、当初は事件の発生すら否定していた。結局、皇太子の知らぬうちに治安機関が暴走した、との見解を示したが、いまなお遺体も見つかっていない。

 見えない真相をめぐり、国際社会は疑念を抱き続けている。

 国連の特別報告者は事件後、皇太子の関与を調べる必要があるとし、国連主導の捜査を勧告した。当時は安保理などが動かなかったが、国際調査の実施は再検討に値しよう。

 バイデン政権は、新たな措置としては、皇太子の側近らへの金融制裁などにとどめている。これでは看板とする人権重視の外交姿勢が疑われる。

 もともと米国はエネルギー安保などを考慮して、友好的な産油国サウジの人権軽視に長らく目をつぶってきた。

 バイデン政権は、中国や北朝鮮を含むアジアの人権問題に取り組むためにも、サウジに厳然と向きあうべきだろう。

 日本は、皇太子肝いりのサウジの経済改革計画に官民挙げて協力している。おととしの大阪でのG20サミットで、当時の安倍首相は皇太子と会談したが、事件には触れなかった。

 サウジは確かに日本の主要な原油供給国である。だとしても、この深刻な事件から目を背けるわけにはいかない。

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