(社説)国会代表質問 「建設的」には程遠い

社説

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 政府が進める諸施策の説明には言葉を費やすが、野党が追及する争点については、従来通りの答弁ではねつける。これではとても、菅首相のいう「建設的な議論」にはつながらない。

 首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が始まった。所信で一言も触れられなかった日本学術会議の人事について、どう語るかが注目されたが、「必ず推薦の通りに任命しなければならないわけではない」として、6人の任命拒否を撤回する考えがないことを明確にした。

 「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動」を実現するために判断したと繰り返したが、この6人を外すことがその目的にかなうのか、到底説得力はない。

 首相は今週になって、民間出身者や若手が少なく、出身や大学にも偏りがあると言い始め、きのうの答弁でも、「多様性」の確保が念頭にあったと語った。しかし、これとても、6人を拒む理由にはならない。

 人事権の行使を通じて、政権の意に沿うよう、学術会議を牽制(けんせい)する狙いがあるのではないか――。こうした疑念は、後付けのような説明をいくら重ねても、払拭(ふっしょく)はできまい。

 首相が安倍前政権の「負の遺産」に向き合う気がないことも、改めてはっきりした。

 森友問題は財務省の内部調査や検察の捜査で決着済み。加計学園の獣医学部新設のプロセスに問題はない。桜を見る会は自分の任期中は開催しない。公文書管理の問題は今後二度と起こさないことが大事……。過去のうみを出し切ることなく、政治や行政への信頼を回復できると思っているのだろうか。

 首相がめざす社会像、力を入れる個別政策を貫く理念についての説明も不十分なままだ。

 立憲民主党枝野幸男代表はきのうの質問の中で、競争や効率を重視する新自由主義にかわる選択肢が必要といい、政治と行政が支え合いの役割を果たす「共生社会」の実現を訴えた。

 人口減少や高齢化、独り暮らし世帯の増加、地域の疲弊など、社会環境の激変に伴い、自助だけでは生きていけず、共助も難しい地域や人々が格段に増えているとして、首相がいう、まず自助、次に共助、最後に公助という考えは「時代遅れではないか」と批判した。

 これに対し首相は、正面切って反論することもなく、自らの「自助・共助・公助」観を肉付けして語ることもなかった。これでは大局観に欠けると批判されても仕方あるまい。

 首相は国会答弁の基本姿勢を問われ、「丁寧な説明」と「建設的な議論」と語った。単なる掛け声でないことを、これから続く論戦で示してほしい。

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